アイシンものづくり精神(スピリッツ)14 アイシンものづくり精神(スピリッツ)14
非破壊検査 開発物語 非破壊検査 開発物語

試験片の調達に奔走、検査装置で試行錯誤 試験片の調達に奔走、検査装置で試行錯誤

「一番最初に取り組んだのは、狙った硬さのテストピース(試験片)を作ることでした」

ダイクエンチ鋼板は高温に加熱した後プレスしながら金型で冷却(焼入)することで高強度を得る工法である。その硬さと磁気特性の相関性を見るには、まずそのための試験片が要る。例えば、合格品からNG品までを再現するため、加熱温度に分布をつけた試験片だ。また、実際の製造現場では金型との接触不足によって冷却速度が低下して焼入不良が起こることがあるため、冷却速度を規則的に変えたものも欲しい。

しかし、そんな試験片をどこでどうやって作ればいいのか。社内には量産設備しかないため、NG領域を含めた理想的な試験片を作るのは難しい。妹尾は、さまざまな基礎研究に取り組むトヨタグループの豊田中央研究所にも協力してもらいながら、試験片の調達に奔走した。

これと並行して進めたのが、保磁力を検査するための装置作りだ。岩手大学の研究室では市販のパソコンやモニター、手巻きのコイルなどで実験環境を手作りしていたが、安定した検査性能を発揮させるには、製品としてパッケージ化する必要がある。妹尾は、それまで接点のなかった検査機器メーカーに飛び込みで協力を仰いだりもしながら、徐々に装置の仕様を決めていった。

試験片での検査が一段落すると、今度は実際の製品で検査を開始した。製品は50種類から60種類ほどあり、それぞれ形状、板厚、材質、表面処理(メッキの有無など)が異なる。その一つ一つで硬度や保磁力を測定し、電子顕微鏡で組織観察を行い、非破壊検査の適応可否を調べていく。実際には検査がうまくいかないことも多々あり、トライ&エラーの毎日が続いた。しかし、こうしたデータの積み重ねが、このあと量産運用を行う際に大きな力となった。

納入先から「承認」を取り付ける 納入先から「承認」を取り付ける

2018年9月、ようやく一部の製品で非破壊検査の量産運用が始まった。だが、実際にはその前にもう一つ、乗り越えるべきハードルがあった。納入先の完成車メーカーから「承認」を取り付けるという仕事だ。

というのも、従来のダイクエンチ製品は、あくまでも破壊検査で品質保証したもの。非破壊検査でも確実に品質保証できることを、さまざまなデータで完成車メーカーに納得してもらい、承認を得ることで、初めて非破壊検査に切り替えることができる。地道に集めた基礎データがここで大いに役に立った。

今回取材した2019年3月時点で、非破壊検査を導入した製品はまだ数種類だが、検査工数の削減効果は着実に上がっている。製品検査コストは、従来の破壊検査に比べて90%減ったほか、部材1本あたりの検査時間も従来の20分から85%減の約3分に短縮された(測定1ヶ所あたり約15秒×12ヶ所)。設備さえ整えれば、検査の自動化も可能だ。

一方で、非破壊検査をこれからさらに多くの製品や他の製造現場で展開していくには、焼入状態以外のさまざまな影響因子、例えば製品の形状、表面処理などによる外乱、工場施設のノイズの影響なども考慮していく必要がある。それでも、非破壊検査をグループ全体で横展開できれば、その恩恵は計り知れない規模になるはずだ。

非破壊検査

▲ 非破壊検査の場合、
検査器具を当てるだけで固さを調べられる

人の役に立てた喜び 人の役に立てた喜び

妹尾は今回の開発について「大学の先生や社外の方など、普段の業務ではまず会うことのない人に出会い、快く協力してもらえたことがとてもありがたかった」と感謝を込めて語る。

「また、上司の理解もあって、思いついたことを積極的に試すことができたのも良かったです。苦労はありましたが、それ以上に楽しいことがたくさんあった開発でした」

「それに今回は生産現場の人が困っていて、それを何とかする、現場の負荷を減らすという仕事だったことに、とてもやりがいを感じました。現場のニーズに応えられるよう、しっかりやろうと。入社したての頃に、人の役に立つことに携われたのが嬉しかったです」

そしてもう一つ、この技術によってもたらされるのが、クルマの軽量化や安全性である。
本検査技術によりダイクエンチ製品の品質や信頼性が向上し、コストが下がることでダイクエンチ製品を採用しやすくなり、自動車の安全性が高まる。ユーザーからは縁遠い話に見える非破壊検査だが、実はクルマに乗るすべての人に恩恵のある技術なのだ。

▲ アイシン高丘の妹尾 武さん。
※インタビューは2019年3月に実施