アイシングループの財務戦略

中長期的な価値創造に向けて
構造改革を財務面から支援します

取締役副社長三矢

はじめに:財務担当役員としての役割

 私は、1981年にアイシン精機に入社し人事部に配属され、87年から経理部に異動、いわゆる主計業務に携わってきました。93年には、米国生産法人に出向し、経営企画から経理、人事、総務におよぶ様々な経験を積みました。2002年1月に経理部副部長に就任し、その後も経理・財務畑を歩んできましたが、財務担当として、中長期目線で企業が持続的に成長し、企業価値を向上(ROIC※1>WACC※2)させていくために、次の3つをベースとして取り組んでいます。第一に、将来に対する種まきをしっかりとしながら変化に対応できる企業体質を整え、利益を確保すること。次に、リスクマネジメントを徹底し、「いざ」を起こさないようにすること、さらには「いざ」が起きた時にいかに影響を少なくとどめるかということです。そして、企業活動のベースとしてESGや「持続可能な開発目標(SDGs)」への取り組みをしっかりと進めていくことです。

※1 ROIC(投下資本利益率):事業活動に投じた資金を使って、どれだけ効率的に利益を上げているかを示す指標。(税引後営業利益÷(棚卸資産 + 有形固定資産 + 無形資産))

※2 WACC (加重平均資本コスト):借入に係るコスト(負債コスト)と株式による調達に係るコスト(株主資本コスト)を加重平均したもので、企業が創出する最低限の期待(要求)収益率となる。

2018年度振り返りと2019年度見通し

 2018年度は、過去最高の売上を記録したものの、営業利益は減益となりました。
 オートマチックトランスミッション(AT)等のパワートレインの事業拡大やCASE関連の開発投資を積極的に増加させた一方で、下期からの中国市場減速等の影響でAT販売が想定より減少したこと、また一過性の品質費用が発生したことが要因です。
 2019年度も、CASE向けの開発費用、生産体制強化に向けた投資をする中、中国市場を中心にAT販売で厳しい状況が続き、減収減益になる見込みです。
 なお、中国は市場そのもののポテンシャルは依然として高く、将来的にニーズは拡大すると予想しているものの、米中貿易問題などの影響もあるため、市場の状況は常に注視しています。
 リーマンショック以降、我々はATの販売拡大を中心に右肩上がりの利益成長を遂げてきましたが、一方で生産性の停滞や固定費の増加などもあり、売上に依存した利益拡大となっていた面は否めません。今回の2期連続減益は約20年ぶりのことであり、この状況をしっかり認識した上で、100年に1度の大変革期を勝ち残っていけるよう、抜本的な体質改善を図っていきます。

中期経営戦略の基本方針

 まずは2023年度に向け、営業利益率7%以上、ROE12%以上を目標に、CASEに対応する企業構造への変革と、リーンな企業体質への変革を進めていきます。
 なお、収益性を図る指標としては、売上高営業利益率、損益分岐点比率、ROE(親会社所有者帰属持分当期利益率)、ROICを重視しています。加えて、社内では「稼ぐ力」※1のさらなる強化を重要なテーマのひとつと位置づけており、現在の15~16%から19~20%に引き上げていく考えです。

成長戦略

 自動車業界を取り巻く環境が大きく変化する今だからこそ、次世代分野の開発には積極的に投資する必要があり、無駄をしっかり省いて、投資にメリハリを付けていくことが重要です。この考えのもと、今後、到来するCASE時代に向けて、私たちは開発投資あるいは経営資源をCASE対応に大きくシフトしていきます。CASE関連の開発費は現在の27%から2023年度には50%程度にまで、また、CASE関連の設備投資については10%から40%程度に高めていく計画です。電動化対応においては、eAxle、ハイブリッド(HV)トランスミッションなどの駆動製品の拡充はもちろん、回生協調ブレーキをはじめとする電子制御ブレーキや電動ポンプなどといったクルマの電動化に対応する各種製品をグループ全体で揃えていることを強みに、システム全体やパッケージで提案をしていけるよう開発を加速していきます。また、MaaS※2社会の中ではシェアリングが主流となり、クルマの稼働時間が長くなったり、多様なユーザーが同一のクルマに乗ったりと、クルマの使い方が変わり、これまで求められていたものとは全く違うニーズが出てくるようになります。私たちが持っているパワースライドドアやシートなどの車体部品についても、耐久性を高めたり、車内空間をより快適に、便利に過ごすといった新しいニーズに応える仕様やサービスを提案したりするなど、開発をさらに加速させていきます。これらの開発を促進するために、自前主義にこだわらず、社外の企業やベンチャービジネスなど、外部との連携もさらに積極的に行い、スピード感を持って進めていきます。

企業体質の強化

リーンな企業体質への変革

 次世代に向けた開発を加速する一方で、リーンな企 業体質をめざして大胆な改革を行っていく必要があります。固定費の削減を徹底して進め、市場の激しい変化に耐えうるよう、損益分岐点比率を80%以下に抑えていきたいと考えています。これを実現するため、「スクラップ&ビルド」「分社経営からグループ経営」をキーワードに、事業、組織、業務のそれぞれにおいて改革を進めています。
 事業の改廃では、聖域なきスクラップ&ビルドを基本方針として、赤字事業や低採算事業からの撤退を進めます。その象徴的なものとして創業時からの事業であるミシン事業とベッド事業からの撤退が挙げられますが、自動車部品事業においても、文字通り聖域のない見直しを進めています。
 次に、組織の改廃についてです。アイシングループはこれまで、分社化を進めることで成長性を確保してきました。しかしながら、量的な拡大に伴って事業、製品や基幹部門などに重複や無駄、非効率が多く生まれてきました。この状況を見直し、解消するために、分社経営からグループ経営に舵を切り、2017年からバーチャルカンパニー(VC)制を推進してきました。VC制導入に伴いグループ本社も発足しており、グループ内における機能部門、経営管理部門の集約・共通化を行うとともに、各VC内の保有資産の有効活用を進めています。さらに、この活動を促進するため、2019年4月にはアイシン・エィ・ダブリュとアイシン・エーアイを統合しました。2019年度中を目途に、世界50拠点を対象とした組織の統廃合、簡素化を進めていく計画です。
 業務の改廃については、機能部門では共同調達、共同物流、IoTの共同開発を推進し、経営管理部門では人事や経理のプラットフォームを統一するなど、グループ全体目線での簡素化・集約化を行っています。また、全ての業務の棚卸をして、本来やるべき業務に集中すること、さらに、人工知能やRPAを駆使し、業務にかかる時間を大幅に短縮することを進めています。こういった活動を働き方改革と連動して行い、全体としてスタッフ部門での生産性を20%以上向上する計画です。

徹底したリスクマネジメント

 また、企業が持続的に成長をしていくために、リスクマネジメントを徹底していかなければなりません。これは「平時」において未然防止と抑制を行い、「リスク発生時」には被害極小化のための初動措置を取ることで、2次災害を防ぎ、通常活動への早期回復を行う取り組みです。世界各地域の事情に合わせてリスクアセスメントを行い、リスクの量と頻度について分析・評価しています。そして、対処すべきリスクの優先順位を決めるとともに、①リスク回避②リスクコントロール③リスク移転④リスク保有の4カテゴリーに区分して対応しています。

※1 稼ぐ力:営業利益率、償却費比率、開発費比率を加算した指標で、営業利益率は会社の現在の実力を、償却費比率は事業の拡大、開発費比率は将来に向けた投資を表している。

※2 MaaS:モビリティ・アズ・ア・サービスの略。あらゆる交通手段による移動をサービスとして捉える新たな概念。

資本政策

  資本政策については、「財務の安全性」と「資本の効率性」のバランスを取りながら、企業価値の向上を図ることを基本方針としています。そのバランスを考える上で、キャピタリゼーション比率※1を指標として用い、当該比率が概ね25%くらいとなるのが最適な資本構成であると考えています。
 「財務の安全性」については、格付け機関による評価をひとつの目安とし、長期借入債務に対して高い信用格付けAAからA+を維持することにより、低コストでの外部資金調達がいつでも可能になるよう努めています。
 一方、「資本の効率性」については、格付けが維持できる範囲で、負債による資金調達を優先し、資本の規模を抑制することで、全体の資本コストの低減を図っています。また、キャッシュ・マネジメント・システム(CMS)※2を導入することで、連結ベースでの資本政策やアイシングループ内での資金の有効活用を実現しています。
 現状、事業全体のROICが約8%に対して、WACCは5~6%であり、調達コストを上回るリターンは得られていることから、企業価値を創出できていますが、リターンをさらに向上させる取り組みが必要だとも認識しています。そのために、先ほど述べた企業体質の強化を積極的に推し進めていきます。
 なお、株主還元については、安定配当を基本に配当性向30%レベルを目安に実施してきました。今後も、その時々のキャピタリゼーション比率や将来の投資の動向を勘案し、自社株買いも検討していきます。

※1 キャピタリゼーション比率:有利子負債と資本(純資産)のバランスを示す指標。(有利子負債 /( 有利子負債 + 株主資本))

※2 キャッシュ・マネジメント・システム(CMS):グループ企業の資金を親会社や中核会社が同一銀行内に専用口座を設置して集中管理することにより、効率的な連結運営や資金運用をする手法、またはそのシステムを指す。

キャピタリゼーション比率の推移

キャピタリゼーション比率 = 有利子負債 /( 有利子負債 + 株主資本)

2014年度以前は日本基準、2015年度以降はIFRSで表示。

配当の推移

2014年度 2015年度 2016年度 2017年度 2018年度
当期利益
(億円)
775 1,003 1,266 1,345 1,101
配当総額
(億円)
268 283 352 407 404
自社株買
(億円)
0 0 490 594 0
総還元性向
※2(%)
34.7 28.2 66.5 74.5 36.7

※1 配当性向 = 1株当たり配当金 ÷ 基本的1株当たり当期利益

※2 総還元性向 =( 配当総額 + 自社株買)÷ 当期利益

2014年度以前は日本基準、2015年度以降はIFRSで表示。

格付け

長期 短期
S&Pグローバル・レーティング A+ A-1
格付投資情報センター(R&I) AA- -

最後に:ステークホルダーの皆様へ

 私たちは100年に一度の大変革期の中、この戦いを勝ち残っていくためには、CASEに対応する企業構造への変革とリーンな企業体質への変革を進めていかなければなりません。その一方で、企業としては取り巻く環境や社会との共存・共栄も欠かせないことです。経営理念で掲げる「新しい価値の創造」「国際協調と競争の中での着実な成長」「社会・自然との共生」「個人の創造性・自発性の尊重」は、まさに今注目される、「持続可能な開発目標(SDGs)」との親和性が非常に高い部分です。従来、アイシングループは、企業活動は社会との信頼関係によって成り立ち、その責任を担っているのが私たち一人ひとりであるという考えのもと、「Be With(共に生きる)」をスローガンに、自然環境保護や青少年育成、まちづくりへの貢献活動を世界中で行ってきました。この先、グローバル化やダイバーシティによって新たな価値観や文化、慣習と出合う場面がさらに増えていく中、これまで以上に相手や社会のことを考えていく必要があると考えています。かつて、江戸時代には雨の日に人とすれ違う時に、お互いにすっと傘を倒す「傘かしげ」を粋としていたと聞いたことがあります。自然に相手とぶつからないように、みんなが少しずつ譲り合う精神、まさしく共生ですが、こういうことを私たちも考えていかないといけないと思います。私たちは事業活動を通じて自らの成長をめざすことはもちろんですが、経営理念を念頭に置き、株主および投資家をはじめ、全てのステークホルダーの皆様とともに成長できるよう、着実に取り組んでまいります。

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