ダイクエンチ鋼の非破壊検査を実現 クルマに乗るすべての人に恩恵のある技術を ダイクエンチ鋼の非破壊検査を実現 クルマに乗るすべての人に恩恵のある技術を

アイシンものづくり精神(スピリッツ)14 アイシンものづくり精神(スピリッツ)14
非破壊検査 開発物語 非破壊検査 開発物語

ダイクエンチ製品の非破壊検査を実現し、検査コストを削減する ダイクエンチ製品の非破壊検査を実現し、検査コストを削減する

自動車業界では近年、特に環境性能や安全性能への要求の高まりから、軽くて強靭なボディがこれまで以上に求められている。軽さは燃費性能や電気自動車の航続距離に、強靭なボディは衝突安全性に寄与するからだ。

そのため新型車では「ダイクエンチ鋼板」と呼ばれる、極めて強度の高い鋼板をボディの一部に使用するのが一つのトレンドになっている。ボディの一部とは、例えばドア内やバンパー内の補強部材、あるいはピラーなどのボディ骨格部品など、衝突から乗員を守るために頑丈でなければいけない部分だ。

ダイクエンチ製品は、英語でダイ(金型)+クエンチ(焼入する)の名の通り、900~1000℃に加熱した鋼板を金型でプレスすると同時に急冷、焼入することで、強度を大幅に向上させたものであり、成型性も優れている為、様々な形状を造る事が出来る。引張り強度※は、一般的な高張力鋼板の500~800MPa(メガパスカル)に対して980~1500MPaとおおむね2倍にも及ぶため、超高張力鋼板とも呼ばれる。

アイシン高丘は、自動車部品の鋳造や機械加工、プレス加工などを手がける、いわば金属部品のスペシャリストであり、ダイクエンチ製品などの高強度ボディ部品の生産も行っている。

さて、生産したダイクエンチ製品を完成車メーカーに出荷する際には、設計通りの強度を持っているかどうかを検査する必要がある。そこで通常行われるのが破壊検査だ。製品の一部を切り出して樹脂に埋め込み、断面を機械研磨し、そこにダイヤモンド製の圧子を押し込んで、くぼみの大きさを観察して硬度の測定を行う。硬度が十分あれば、強度も担保されるという考え方だ。

しかし、破壊検査はあくまでも抜き取り検査であり、出荷する製品そのものは検査できない。また、破壊検査には多くの手間がかかる上、検査品の廃棄ロスも発生してしまう。さらには、検査に時間がかかるため、不良が判明した時点で大量の不良品を製造している可能性がある。生産数や品種が増えるほど、検査員の配置も増やさなくてはいけない。

製品の全数検査が原理的に可能で、もっと効率のいい検査方法はないだろうか。そんな切実な思いから、試験品を破壊することなく検査を行う非破壊検査の開発がスタートした。

※引張り強度…材料に引張り力が加わったときの材料の強さ

岩手大学の研究発表がきっかけ 岩手大学の研究発表がきっかけ

非破壊検査とひとくちに言っても、その方法はX線や超音波などさまざまだが、アイシン高丘が注目したのは「磁気特性」。きっかけは、ある技術展で岩手大学が行っていた研究発表だ。

ダイクエンチ製品には、焼入によって鉄の結晶中に炭素が含まれるマルテンサイトという組織状態となっている。これがプレス製品の中で最高レベルの硬さを有するダイクエンチ製品の秘密だ。マルテンサイトには磁気ヒステリシス曲線というグラフで表される保磁力、すなわち「磁化された材料を磁化されていない状態に戻す為に必要な外部磁場」を増大させるという特性がある。つまりダイクエンチ鋼板の硬度と保磁力には一定の相関があり、磁気特性を計測すれば硬度の検査も可能である。そんな研究内容だった。

保磁力と硬さの相関について

磁気ヒステリシス曲線から、
保磁力を調べることが出来る
保磁力が大きいものほど、
曲線の間隔が大きくなる

これを見たアイシン高丘の社員が「面白そうな研究がある。やってみないか」と社内で提案。そして入社してまだ4年目だった妹尾(せお)に、白羽の矢が立った。大学で半導体を研究していた妹尾にとって、磁気は専門外だったが、大学時代から実験が好きだった妹尾はすぐに、これは面白そうだと直感した。

とはいえ、なにぶん経験のない分野であり、社内にその道の専門家がいるわけでもない。担当者は上司を除くと、基本的には妹尾一人だった。妹尾はまず岩手大学を訪ねて、材料工学や非破壊検査を専門とする鎌田康寛教授に話を聞くことにした。2013年頃のことだ。

「一種の産学連携プロジェクトと言えますが、当初は他の研究をしながらこっそりやっているようなレベルで。私も半ば学生気分と言ったら変ですが、鎌田先生にアカデミックな部分を教えてもらいながら開発を始めたような感じでした」と妹尾は振り返る。