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アルミ対向6ポットキャリパー開発物語 アルミ対向6ポットキャリパー開発物語

最大の難関はピンの設計だった 最大の難関はピンの設計だった

しかし、理論的にはこの方法がよいとわかっていても、製品化は簡単ではなかった。なにしろ同じ対向型キャリパーでも、従来製品とは構造がまったく異なる。例えば、これまでキャリパー全体で受け止めていた力を、基本的にはピンだけで受け持つことになるため、ピンにどれくらいの強度が必要なのか、どんな課題が生じるのか最初は分からない。

入社以来、対向型キャリパー一筋で開発業務に携わってきた開発メンバーは「最大の難関はピンの設計でした」とふり返る。

「誰も経験したことのない世界初の構造なので、最初はピンをどうやって設計していいのか、まったくの手探り状態でした。また、強度を上げるためにピンを太くすると、その分ブレーキパッドの面積を確保するのが難しくなります。強度計算やCAE解析(コンピューターシミュレーションによる解析)を駆使しながら、試作品を作って実機検証を何度も繰り返すことで、パッドの大きさ、ピンの太さや形状、保持方法の最適なバランスなどを一つずつ導き出し、カタチにしていきました」

そして試作品を装着したテスト車両を初めて走らせた時のことをこう語る。

「すでにCAE解析やベンチテストなどで大丈夫なことは分かっていました。それでも実際に自分で車両を走らせて、ブレーキを踏んだ瞬間は、手ごたえを感じ『やった!』と思いました。やっぱり静粛性を上げるために頑張ってやって来ましたから」

一方で、製品化するには、過酷な環境下でもピンの経年劣化や腐食を防ぐことが重要だった。ブレーキキャリパーは、制動時に発生する熱、ブレーキダスト、泥や水にさらされるほか、ホイールクリーナーやブレーキフルードが付着する可能性もある。クルマの部品の中で、最も過酷な環境にさらされるパーツの一つがブレーキであり、また言うまでもなく重要保安部品として圧倒的な信頼性が求められる。

開発陣は、さまざまな表面処理を比較検討し、素材メーカーや表面処理メーカーを巻き込みながら、工程ごとに成分分析まで行った。そして量産品に近づいた段階でもなお、金属に含まれる成分や素材の相性、工程を見直したことで、最終的にベストな表面処理にたどり着くことができた。

完成した対向6ポットキャリパーを目にすると、つい迫力あるキャリパーボディに目が奪われてしまう。しかし、その中心を貫く一つのピンこそが新製品の文字通り「軸」となる部分であり、見どころなのだ。

開発の終盤、量産間際のところで製品化に尽力した開発メンバーは語る。

「既存技術を転用する場合でも試行錯誤はありますが、今回は過去の経験やノウハウがなく、まったく新しいことへのチャレンジでした。そうなると、どこかにヒントがあるわけでもなく、解決のための糸口は自分で突き止めるしかない。そういう難しさがありました」

キャリパーの意匠にもこだわる キャリパーの意匠にもこだわる

新製品ではキャリパーの意匠、つまり美しさにも強くこだわった。プレミアムカーでは、ブレーキキャリパーも車の意匠の一部であり、外から見える数少ない機能部品の一つでもある。

そしてこの新構造のアルミ対向6ポットキャリパーを世界で初めて採用するクルマが決まった。2017年3月に発売されたレクサスのフラッグシップクーペ「LC」である。

レクサスLCの対向6ポットキャリパーには、LCの流麗なスタイリングに負けないよう、機能美を追求したフォルムを採用した。さらに塗料選定の段階から塗料メーカーと協力したことで、どこか日本の美を感じさせる美しいブラックの塗装を実現することができた。レクサスLCのスタイリングを、スポークの間からちらりと見える日本製ブレーキキャリパーが引き立てている、といったら言い過ぎだろうか。

なお、この対向6ポットキャリパーでは、キャリパー全体が一つの部品であるモノブロック構造や、センターブリッジ構造を採用することで軽量化も実現。重量は競合製品と比べて10%減を達成している。

さらに新しいチャレンジに向かって さらに新しいチャレンジに向かって

こうして、高い制動力だけでなく、プレミアムカーにふさわしい静粛性や美しさを備えた対向6ポットキャリパーが誕生した。さらに同タイプの対向6ポットキャリパーは、2017年秋に発売されたレクサスのフラッグシップセダン「LS」のスポーティバージョンである「F SPORT」にも採用されている。

開発メンバーにとって、この開発プロジェクトはどんなものだったのか。

「今回は、最新の技術を取り入れるだけでなく、新しい技術を見つけるために苦労もたくさんありましたが、そこを最後までやり切り、量産車のフラッグシップ車に採用されるところまで設計・開発できたことは、個人的には大きな喜びです」

「ブレーキの世界はいま、自動運転や電動化といった大きな環境変化の中でまったく新しい技術が求められています。今回、誰もやったことのない構造にチャレンジできたことは、自分にとって大きな自信になりました」

アドヴィックスにとって今回の対向6ポットキャリパーがプレミアムスポーツ領域の車両に採用されたことは、大きな価値ある一歩だ。そして開発に携わったエンジニアにとっても、このチャレンジで得た経験と自信は、次の新たなプロジェクトで大いに活かされるだろう。

▲ 今回お話を伺ったアドヴィックス ファウンデーション技術部のメンバー。
※インタビューは2019年3月に実施