優れた運動性能と快適性を両立 部品そのものを作るだけでなくシステムで走りをデザインする 優れた運動性能と快適性を両立 部品そのものを作るだけでなくシステムで走りをデザインする

アイシンものづくり精神(スピリッツ)12 アイシンものづくり精神(スピリッツ)12
減衰力制御システム開発物語(AVSシステム) 減衰力制御システム開発物語(AVSシステム)

プレミアムカーでは状況にあわせて乗り味の変わる減衰力可変ダンパーがスタンダードになりつつある プレミアムカーでは状況にあわせて乗り味の変わる減衰力可変ダンパーがスタンダードになりつつある

クルマの乗り味を決定づける重要な部品のひとつが「ダンパー」だ。「ショックアブソーバー」とも呼ばれ、スプリングとセットでクルマの動きを制御する。走行時のクルマの姿勢は、ダンパーとスプリング次第となるため、乗り心地や走行性能に大きな影響を与える。レースでの勝負の決め手のひとつは、ダンパーとスプリングの正しいセッティングにかかっていると言われるほど重要だ。

しかし、コーナーで踏ん張りが効くようにダンパー&スプリングを硬くすれば、乗り心地も硬くなって快適性は悪化する。柔らかくしすぎると走行性能が悪くなる。そのため、古くから走行性能と快適性の高次元での両立がダンパー&スプリングの設定の目標とされてきた。

その解答のひとつが減衰力制御システムだ。減衰力可変ダンパーは内部のオイルの流れをリニアソレノイドを用いた減衰力可変バルブへの通電により制御している。オイルを流れにくくすれば、ダンパーはより大きな力を発生し、逆にすれば小さな力で動くようになる。通常のダンパーでは減衰力特性が固定され、走行中に可変することは出来ない。減衰力可変ダンパーは、荒れた路面では、減衰力を下げて乗り心地を良くし、キビキビ走りたいときは減衰力を上げるといった具合に時々刻々とダンパーの働き方(減衰力の発生の仕方)をシチュエーションによって可変させる。それが減衰力制御システムだ。

ダンパーの減衰力を変化させるというアイデアは古くから存在した。トヨタでも1980年代から市販車に、そうした機能を持たせてきた。ただし、機構は複雑で高コストということで、普及はあくまでも一部の高級車に留まっていた。しかし、近年の電子制御技術の発展などに伴い、欧州プレミアムブランドでは、減衰力可変ダンパーの採用が急激に拡大。国産ブランドでも、同じような動きが見えてきた。

そうした流れの中で、2012年、アイシンに「次世代の新しい減衰力制御システムを開発しないか」と声がかかる。
2014年ごろに販売予定の新型車に搭載する新しいシステムだ。ダンパーの専業メーカーが、数多く存在する中で、アイシンに声がかかったのは、“ダンパー単体ではなく電子制御と組み合わせた、より範囲の大きなシステムの開発には、技術のすそ野の広いアイシンが最適だろう”という考えがあったのだろう。

最初はとまどいつつもがむしゃらに学習 新しい論文を発表するほどの境地に 最初はとまどいつつもがむしゃらに学習 新しい論文を発表するほどの境地に

技術の懐の深さを見込まれたとはいえ、実際のところアイシンにとってダンパー関連の開発は未知の領域であった。

「ダンパーって何? っていうイチからのスタートでした」とスタッフは当時を振り返る。制御系のスタッフも「トヨタ側と話をしてもチンプンカンプンで、話が通じないんですね。車両運動を数式で表していたりして、初めてのことばかりでした」。

また、開発するためのノウハウも当然ない。機構を作るだけでなく、搭載した状態でのノイズや振動も考慮する必要がある。しかし、ダンパーの減衰力を変化させるのに使うソレノイドの作動音は、どのようにドライバーに聞こえるのかといった過去のデータが存在しない。さらに言えば、作動音計測手法が確立されていない。メカニズムの解析だけでなく、作動音計測手法の確立も並行して行われた。しかも、今回はクルマの走り自体の深い理解も必要とされる。そのために、新たにモータースポーツ経験のあるスタッフも開発陣に加えられた。

「これまでのエンジニア人生で、もっとも大変だった」という開発は、それでも着実に進んでゆく。その成果のひとつが、ばね上にあるセンサーだけで、ばね上とばね下の相対速度を精度高く推定する新しい制御理論だ。学術論文として発表された、その技術は2018年春に公益社団法人・自動車技術会による浅原賞学術奨励賞を受賞している。

そうして完成した減衰力制御システムは、2014年のレクサスの新型車に搭載されて世に送りだされる。「その当時にできることは、すべてやりきった」という技術は高く評価され、トヨタの他の車種にも採用が広がったのだ。


「更なるレベルアップを目指し、開発は継続しました」

当初の目標である新型車への搭載という最初の目標は、開発陣にとっては、あくまでも通過点に過ぎなかった。そうして生まれたのが第二世代ともいえる新製品だ。