アイシンものづくり精神(スピリッツ)8 アイシンものづくり精神(スピリッツ)8
ガスヒートポンプ式エアコン開発物語 ガスヒートポンプ式エアコン開発物語

安全性を第一に、部材をアルミから鋳鉄に変更。ラインオフ四ヶ月前の英断 安全性を第一に、部材をアルミから鋳鉄に変更。ラインオフ四ヶ月前の英断

開発チームの努力が実り、90年12月には耐久時間が初めて7千時間を突破した。
当初と比べると大変な進歩である。
ところが、細部まで調べてみると意外なものが見つかった。
フロントベアリングの外輪内部に、明らかに内部剥離が発生していた。
誰かがうめくように叫んだ。
白色流動層だ

内側でベアリングの破損が進行していたのである。
ラインオフ(生産開始)は4カ月後。
早急に対策を講じなければならない。
正月どころではなかった。

「ベアリングを覆っている外輪の剛性が不足しているのかもしれない」
「でも、それを証明するデータが不足しています」

ラインオフが迫っているなかで、入念なデータを取る時間の余裕はなかった。
「安全性を第一に考えて外輪の材料をアルミから剛性の高い鋳鉄に変えよう。
これしかない」

これが効を奏し、91年、予定通りに改良型91モデルが完成。
すぐさま市場に投入された。

コンプレッサーの不具合は劇的に減少し、すでに発売されていたGHPの部品交換を行った結果、故障発生率は激減し、ついに先行メーカーをしのぐことができた。
まさに起死回生のモデルだった。

とはいえ、一度着せられた汚名を返上することは容易ではない。
信頼を失うのは一瞬だが、回復には時間がかかるからである。

「品質のアイシン」との評価が生まれてきたのは4年後の95年に投入した10馬カモデルの成功からだった。

そして、その評価をさらに揺るぎないものにしたのが、96年に開発着手した「リニューアル対応機」だった。

白色流動層

水素が侵入しやすい環境で、高加重部位の金属組―織に白色の組織変化が生じ、表層組織が脆弱になって、計算寿命以下で剥離が発生する現象。

白色流動層 白色流動層

配管の取替え・洗浄不要のGHPでリニューアル市場を席巻せよ 配管の取替え・洗浄不要のGHPでリニューアル市場を席巻せよ

GHPの寿命は室内機、室外機とも15年ほどであるため、バブル期に大量に販売されたGHPの代替需要が00年以降に期待されていた。
その大量の代替需要をねらおうというのが「リニューアル対応機」だった。

このとき製品には代替フロンが使われることになった。

ここで問題になったのが配管だった。
代替フロンと「R22」(以前使用されていた冷媒ガス。
オゾン層を破壊するということで生産中止)とでは使用する冷凍機油が異なるため、これらが混じると不純物が混ざって潤滑不良となり、コンプレッサーが壊れてしまう。
リニューアルにあたっては天井や壁に残された配管を取り替えるか、人念に洗浄するしかない。
これは大変な重労働で、多くの資金と人手、長い時間を必要とする。

「取替えや洗浄のいらないリニューアル機だったら、圧倒的に有利なんだが」
「洗浄せずにリニューアルできるにこしたことはない。
ダメかもしれないけれど、試してみる価値はあるぞ」

開発メンバーが採った方法は地道で根気がいるものだった。
配管の残存冷凍機油と新しい冷凍機油を混合させて実験し、信頼性に影響がないことを一つひとつ証明するというのだ。
だが、「市場の冷凍機油を全て調べるとなると、時間がかかりすぎる」
「リニューアルですから、全てを対象にする必要はないと思うのです」

調べてみると4系統ほどの冷凍機油を調べれば、既存機の約8割をカバーできることがわかった。

さらに冷媒配管内の不純物を除去するため、不純物の侵入を防ぐフィルターも新たに開発した。
これは低圧配管で千メッシュという、一般的なフィルターの10倍の細かさを持つものだった。

こうして異種のオイルを混合して使っても何ら問題のないリニューアル対応機が誕生した。
常識が打ち破られた瞬間だった。

リニューアル用フィルターキット

リニューアル用フィルターキット リニューアル用フィルターキット

世界初の配管洗浄レスGHP誕生。業界のスタンダードとしてアイシンの名をさらに高める 世界初の配管洗浄レスGHP誕生。業界のスタンダードとしてアイシンの名をさらに高める

こうして01年、発売されたリニューアル対応機は世界初のGHPとして、「GHPのアイシン」の名をさらに高めることになった。
既設配管を洗浄しなくてよいため施工費が最大で80%も削減でき、工期も大幅に短縮できる。
配管を取り替えないので廃棄物がほとんど出ない点も画期的だった。
05年には、当社の配管洗浄レス型GHPは業界のスタンダードとして認められるに至った。

GHP事業は98年には20馬力の大型機を投入し、00年には販売額が100億円を突破した。
さらに01年からは、韓国にも販売を開始、現地での市場占有率は50%超(04年)とトップシェアを占めるまでになった。
現在は5馬力から25馬力まで8種類のバリエーションをそろえ、年間164憶円まで成長している。

「無理だ」「無謀だ」「無茶だ」という声のなか、「なにくそ」と取り組んできたメンバーたちの勝利だった。

配管洗浄レスGHP 配管洗浄レスGHP
▲ 20馬力の大型機、GHP70室外機