アイシンものづくり精神(スピリッツ)7 アイシンものづくり精神(スピリッツ)7
可変バルブタイミング機構開発物語 可変バルブタイミング機構開発物語

やっかいに思っていた“ばたつき”を利用する逆転の発想 やっかいに思っていた“ばたつき”を利用する逆転の発想

「水は高い所から低い所へ流れるものだけど、BMWの要求は逆にしろといっているのと同じだな」

開発チームは悩んだ。
煩悶を繰り返していた時、ふと、ひらめいたのが逆転の発想だった。

ベーン型は機械的な摩擦力が低いため、油圧ゼロの時には勝手な移動(ばたつき)を繰り返すが、これを予防するためにロック機構を設けていた。
これが利用できないかと考えた。

少し進角方向へ力を与え、今までやっかいだと思っていたばたつきを利用し、従来とは反対の最進角の位置でロック機構を設ければうまくいくのではないかというアイデアだった。

その後、BMWから依頼のあった1ヵ月後には計画図を提出することができた。
結局、BMWの要求を達成することができたのは当社だけだった。

そして、すぐさまエンジン改造と試作品の作成を行い、通常3ヵ月かかるところを2週間という早業で完成させた。
試験当日、はやる心と不安を抱えながら起動スイッチをオン。
カタカタとばたつく音がした後、訪れたのは静寂ー。
最進角の状態でロックが作動した瞬間だった。

待ちに待った、競合製品に対して圧倒的な優位性を持つVVTがこうして生まれたのだった。

だが、本当の開発はそこからだった。

トラブルを告げる緊急ファックス!築いた信頼関係が解決に導いた トラブルを告げる緊急ファックス!築いた信頼関係が解決に導いた

2000年1月、メンバーはミュンヘンのBMW本社にいた。
1年後の量産化に向け、毎週木曜日に開かれることになった第1回目のプロジェクト会議のためである。

会議では山のような課題が提出された。

ミュンヘンからアイシン・ドイツ事務所のあるフランクフルトまで約400km。
アウトバーンを時速200kmで疾走する車内が作戦会議や課題調整の場となった。

帰社してその日のうちに報告書をまとめ、日本へ送付するが、時差のおかげで金曜日の朝には日本のメンバーもBMWの意向を知ることができた。
東と西を往復するさまざまな情報やデータ。
これを繰り返すことで着実に信頼関係が築かれていった。

そうしたある日、日本にいる開発担当者のもとに緊急のファックスが入った。
フランクフルトからだった。

「吸気バルブ側のVVTが初期位置で最遅角に復帰しません」

深刻なトラブルだが、日本側は頭をかしげた。
国内での試験では、そうした現象は一度も発生していなかったからだ。

現地の駐在員に聞き込みをしてもらったところ、BMWは新たにバルブのリフトを可変する機構を採用しており、この影響で、VVTが最遅角に復婦しなかったことが分かった。

早速、さまざまな対策を試したが、これはというものがない。
最終的に当社側の出した結論が、「エンジン側の制御法を変えるしかない」というものだった。

だが、BMW側のプロジェクトリーダーは、「製品で対策しろ」の一点張り。
ここで、救いの手を差し伸べてくれたのがBMWの設計担当者だった。
30回以上行き来するなかでお互いの信頼関係ができていた結果、当社の意向を汲み取ってくれたのだ。

「原理的に限界に来ている。
制御で対応するしかない」

BMWの技術者の言葉でプロジェクトリーダーも納得した。
人と人とのつながりが問題解決への道を開いたのだった。

トラブルを告げる緊急ファックス!築いた信頼関係が解決に導いた トラブルを告げる緊急ファックス!築いた信頼関係が解決に導いた

その後のVVT量産化に伴う課題も山積みだった。
ほとんど経験のない欧州メーカーの品質に関する考え方や要求項目、工程監査にいかに対処するのか。
開発メンバー、工場の生産技術、設計部門は知恵と汗を絞り、徹底的な対策を施した。
その結果2000年春、無事にラインオフを迎え、量産を開始することができた。

当社のVVTはルノー、ダイハツ工業、ボルボ、BMWと欧州中心に順調に業績を伸ばしていった。

BMWでの品質確保、低コスト開発の経験とノウハウを生かして、GMからの量産化受注も獲得し、北米でのVVTの第一歩も踏み出した。

まさに世界が認めたアイシンの技術。
アイシンのVVT搭載により、最大で自動車の出力は8〜10%向上、燃費は3〜6%向上。
また排気ガス(NOx)は40%低減される。

世界のニーズに対応する商品として、当社製VVTの年間生産量は98年度の12万個に始まり、03年度には約150万個に急増。
現在は国内外7社に採用され、年間200万個以上を生産している。

VVTは機関系事業の基幹製品に成長した。
一丸となって粘り強く開発、販売を続けたメンバーたちの努力の結晶だ。
敗北の日々は、世界のアイシンヘと続いていたのだ。