アイシンものづくり精神(スピリッツ)6 アイシンものづくり精神(スピリッツ)6
スマートキーシステム開発物語 スマートキーシステム開発物語

後ろポケットのキーでは作動しない?どんな場合も確実に届く周波数を探せ! 後ろポケットのキーでは作動しない?どんな場合も確実に届く周波数を探せ!

もう―つの要、車両側送信アンテナ開発は、最適な送信周波数を探ることから始まった。
通常、キーレスエントリーの通信では周波数300MHz(メガヘルツ)帯が使われているため、まず同じ周波数の利用を考えた。
周波数が高ければ波長は短くなり、アンテナを小型化できるからである。

ところが、300MHz帯では問題が発生した。
スマートキーを手に持っていたり、胸ポケットに入れているときの実験では問題なく作動する。
しかし、スマートキーとの間に障害物があると作動しないことがあるのだ。

周波数の高い電波の場合、直進性が高いことが原因だった。運転者がズボンの後ろポケットにスマートキーを入れて車両に向かって歩く場合などは、人体が障害物となって電波が届かないのである。
逆に予想以上に電波が遠くへ飛んでしまうこともあった。

「周波数を変えるしかない」
セキュリティ性能が求められる商品であるがゆえ、決められた通信エリア(70〜100cm) の範囲内に、確実に電波を飛ばす必要があり、なおかつその範囲内でのみ照合が行われなくてはならない。
この厳しい商品特性から、開発チームが次に選んだのは100kHz(キロヘルツ)帯だった。
だが、周波数が低いと波長は長くなり、アンテナの小型化が難しくなる。
商品化するためのハードルはさらに高くなった。

周波数の特徴と主な用途

周波数の特徴 周波数の特徴

世界一厳しい日本の電波法にも適合するシステム、実現 世界一厳しい日本の電波法にも適合するシステム、実現

開発チームは電波を広い角度で飛ばし、通信性能を向上させるために、アンテナを水平方向軸だけでなく、垂直方向軸にも設定する2軸アンテナを採用した。

しかしアンテナを2本にする分、小型化をさらに極める必要が生じる。
狭いドアハンドル内にいかに2本の軸アンテナを納めるか。
開発チームはアンテナに巻くコイルの巻き方に苦心した。

山形県にある工作設備メーカーまで出向いて機械を借り、何度もトライを重ねた。
朝一番の新幹線に乗り、昼過ぎからトライを始めても午後4時には終えないとその日のうちには帰れない。
苦心の日々は3カ月ほど続いた。
その結果、99年春、ようやく量産化に対応できる巻き方を見出した。
何とか同年7月の最終試作に間に合わせることができたのである。

こうした苦闘の日々は無駄ではなかった。

同様のシステムの実用化は、ベンツが99年に開発した「キーレスGO」が世界初だが、送信出力が大きく、日本の電波法に適合していなかったため、販売は欧州に限られていた。
また、ドアパネル内に送信用の大型ループアンテナが搭載されていたため、当初は対応できる車種も限定されていた。

ところが当社が取り組んだ低周波数の電波を採用したシステムは、世界で最も厳しい日本の電波法に適合するとともに、アンテナ・センサー部を小型化し、ドアハンドル内蔵を実現したため、多くの車種への搭載もきわめて容易になったのである。

2軸アンテナ

水平・垂直の2本のアンテナを90度に配置することにより、波長の長い電波をコンパクトなアンテナで発信することに成功した。

2軸アンテナ

めざすは、オール・イン・ワン。クルマだけでなく、住宅、職場にも使える“夢のキー”を めざすは、オール・イン・ワン。クルマだけでなく、住宅、職場にも使える“夢のキー”を

2000年8月、日本初の電子式総合キーシステム「スマートキーシステム」は誕生した。
そしてその後、あらゆる車種のドアハンドルに組み込めるアンテナ・センサーの開発を行い、すでにトヨタ自動車向け20車種への展開が具体化している。

ワイヤレスキーから、スマートキーへー。
全車標準化をめざし、技術の改良に取り組む技術者たち。
その目線の先には、さらなる未来像が描かれている。

「将来は1つでオールマイティに使えるキーを作り出したい。
クルマ用のキーとしてだけでなく、住宅や職場など、暮らしのあらゆる場面で、同じキーを使える、オール・イン・ワンの夢のシステムだ。
これができれば今よりずっと便利になることは確実だろう。
こうした、どこでも使える“ユビキタス通信”が、私たちのめざすもの」

夢の実現に向けて技術者たちは今日も、新たなテーマに挑み続けている。