衝突時のドライバーを護れ!安全強化に応える操舵システム 衝突時のドライバーを護れ!安全強化に応える操舵システム

アイシンものづくり精神(スピリッツ)4 アイシンものづくり精神(スピリッツ)4
電動ステアリングコラム開発物語 電動ステアリングコラム開発物語
電動ステアリング

アイシンが世界に先鞭をつけた、ハンドル位置調整の電動化 アイシンが世界に先鞭をつけた、ハンドル位置調整の電動化

クルマを運転するときの運転姿勢やステアリングホイール(ハンドル)の位置はきわめて大切である。
無理な姿勢が続くと疲労がたまるし、事故の危険性も高まる。
ところがドライバーの体格は人によって異なるため、最適なポジションを得ようとするとハンドルの角度や距離を調整する必要が出てくる。
これらを可能にするのが、ステアリングコラムのチルト機構テレスコピック機構である。(図参照)

ステアリングコラムの役割は、最適なドライビングポジションの実現のほかにも、ハンドル操作の前輪ヘの伝達や、衝突時に人体にかかる衝撃エネルギーの吸収、さらには駐車時のハンドルロックによる盗難防止などがある。
小型化や運転時の快適性だけでなく、高い安全性能を持つこともステアリングコラムには求められているわけだ。

そのステアリングコラムの電動化で世界に先鞭をつけたのがアイシン精機だった。
1985年、ハンドル上下の角度(チルトステアリング)と前後の距離(テレスコピックステアリング)を電動で調節することのできる電動チルト&テレスコピックステアリングコラム(電動コラム)を世界で初めて量産化したのである。

ステアリングコラムのチルト機構とテレスコピック機構

  • チルト機構 … ハンドルの上下の角度を調節
  • テレスコピック機構 … ハンドルの前後の距離を調節
ステアリングコラムのチルト機構とテレスコピック機構 ステアリングコラムのチルト機構とテレスコピック機構

千載一遇のチャンス到来!世界一の電動コラムをめざせ。 千載一遇のチャンス到来!世界一の電動コラムをめざせ。

だが、その後は順調というわけにはいかなかった。
トヨタ自動車の内製部門でも独自に開発・生産をしていたため、お客様であるトヨタ自動車と競合することとなったのである。
その後10年以上もの間、トヨタ自動車内製部門との激しい受注獲得競争が続いた。

98年秋、欧州の自動車安全基準に車両衝突時のドライバー保護要件の強化が導入されているというニュースが飛び込んできた。
従来の頭、胸などの障害規定に加え、膝の障害規定が追加されるというのである。

コラム部を含むステアリングシャフトは、安全装置としての機能も備えているが、新たに膝の障害規定が追加されたことで、コラムの安全性能がいっそう重要視されるようになったのである。

「千載一遇のチャンスだ」
厳しい競合、募る危機感…こうした状況を抜け出すきっかけがほしかった関係者にとって、それは絶好の機会だった。

「安全で使いやすい、画期的な電動コラムを作り出そう。将来は他の自動車メーカーにも売れる商品に育て、走行系事業の柱にしようじゃないか」

そんな思いを背景に、世界一の電動コラムをめざし、開発チームは動き出したのだった。

ステアリング位置調整のしくみ

上下の角度(チルト)と前後の距離(テレスコピック)用の2つのモーターで位置調整する。

ステアリング位置調整のしくみ ステアリング位置調整のしくみ

「トヨタとアイシンが協力して究極の電動コラムをつくって欲しい! 「トヨタとアイシンが協力して究極の電動コラムをつくって欲しい!

「トヨタの先を行こう」
開発チームが掲げたのはトヨタ自動車の内製部門に先んじることだった。

一丸となって第1回目の構造図を作成し、トヨタ自動車へ持ち込んだ。
しかし、その反応は、
「製品に突起部があって、膝の安全性にマイナスだ。これでは基準をクリアできない」
というものだった。

さらに車両が衝突した際、運転者はエアバッグで衝撃を緩和されるが、同時にコラムが取付け部から離脱して、衝撃を和らげる働きをする。
この時、仮に離脱したコラムの軌跡が周辺部品に干渉すると、人体に与える衝撃力は増大してしまう。
衝突時、周辺部品に干渉せず、隙間を保ちながら、想定した範囲内にいかにコラムを納めるかを解決しなければならない。

転機が訪れたのは開発に着手してまもなくの98年11月だった。
トヨタ自動車の幹部から、次のような声が寄せられたのだ。

「同じ製品開発をグループ内で競合しているのは非効率だ。トヨタとアイシンとが協力して、究極の電動コラムをつくってほしい」。
これまで長く続いていた競合状態を脱し、開発を一本化することで開発の無駄を省こうという意図である。
ベースとなったのは当社が提案した構想だった。

こうしてライバル同士が手を組んだ共同開発が始まった。

さまざまな衝突実験を繰り返し、数ミリの攻防続く さまざまな衝突実験を繰り返し、数ミリの攻防続く

どうすれば部品の干渉を回避することができるか。
それには衝突時のコラムと周辺部品の動きを把握する必要がある。
開発メンバーがトヨタ自動車に派遣された。
同社の実験室で衝突実験を繰り返し、ステアリングシャフト周辺のどの部品が、どんな壊れ方をするのかを把握して、周辺部品との干渉の分析にあたった。
衝突安全と言っても前突、斜突、オフセット衝突とさまざまなケースがあり、その作業は膨大なものであった。

99年4月になると、さらに厳しい開発要件が示された。
一つ目は、衝突時に膝障害を軽減するため、コラムカバー内の下側隙間を40ミリ以上確保する(図中)こと。

二つ目が、衝突時、ブレーキペダルが入り込んできてもいいようにコラムの車両前方へのストロークを確保する(図中)ということである。

これは、あまりに高いハードルだった。
特に前者の場合、従来型の1.5倍もの隙間を確保する必要がある。

ただでさえ狭いところに製品を搭載するため、少しでもスペースがほしい。
衝突実験の担当者と数ミリをめぐる攻防を続けながら、開発メンバーは計画図の完成度を高めていった。

衝突時の安全性確保

衝突時にドライバーの足を守るため、ステアリングコラム周辺に緩衝用のスペースを設けることが必要だった。