ロープで上り下りする消防士が開発のヒントに!乗用車にもスライドドアシステムを ロープで上り下りする消防士が開発のヒントに!乗用車にもスライドドアシステムを

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パワースライドドアシステム開発物語 パワースライドドアシステム開発物語
スライドドアシステム

あらゆる車種に搭載できる自動スライドドアを! あらゆる車種に搭載できる自動スライドドアを!

ミニバン人気が続いている。 今や乗用車のなかで4台に1台はミニバンが占めるほどである。
小さな子ども連れや三世代家族など大人数でも乗れるし、雨の日の乗り降りもラク。
目的に応じてシートアレンジもできるなど、使い勝手の良さが人気の秘密だ。

ミニバンには様々な快適装備があるが、パワースライドドアシステム(PSD)はその代表的なものの一つである。
運転席のスイッチやドアハンドル操作により自動でスライドドアが開閉できる快適さが市場に受け入れられて、自動車メーカー各社で採用が相次いでいる。

98年初夏。PSDの次期開発モデルについて、営業担当者、設計担当者らによる議論が続いていた。

「次のモデルで、当社の新規性を出した新しい構造のシステム提案はできないだろうか。
現状の製品では、ドアを開閉するための駆動ユニットが室内へ大きく張り出し、乗り降りもしにくい。
作動音も気になる。しかも搭載できる車種も限られる」。
「今の機構のままで十分だと思う。システムがどうあれ、どんなPSDにもドアロックやドアクローザーが付いている。
たとえシステム受注できなくても単品受注はできるだろう」。

新システムの開発か、現状の改良か。様々な意見が出され、議論は白熱した。

ドア内蔵型PSD

画期的な製品で、システムメーカーヘ脱皮しよう 画期的な製品で、システムメーカーヘ脱皮しよう

決め手となったのは、ドア部品の開発に長年携わってきた開発リーダーの一言だった。
「PSDの次期モデルが大きなビジネスチャンスであることはまちがいない。
だったら、このチャンスを生かし、画期的な製品を開発しようじゃないか。
これまでの部品メーカーからシステムメーカーへの脱皮をめざし、車体系事業の大きな柱として育てよう!」。

守りの戦略から攻めの戦略へ。
熱のこもった言菓に、同席したメンバーは思わずうなずいた。
そして、世界初となる駆動ユニットのドア内蔵型PSDの開発プロジェクトが大きく動き始めたのだった。

ところで、なぜドア内蔵型PSDに着目したのか。
当社のスライドドアの歴史は比較的新しく、1997年トヨタ・ラウムに搭載された手動式スライドドアに始まる。
99年には当社初の電動式PSDがトヨタ・タウンエース/ライトエース・ノアに採用されたが、搭載車両がマイナーチェンジ車であったため設計の自由度が小さく、駆動ユニットや電力を供給する給電ユニットを車両側に配置しケーブルでドアを引っ張るプッシュプルケーブル方式を採用するしかなかった。
そのため「室内空間が狭くなる」等、多くの課題を抱えていた。

こうした経緯から、開発メンバーたちは、駆動ユニットなどの主要部品を全てドア側に内蔵するという世界初のアイデアの採用に踏み切ったのである。

10年後も世界のトップにいることができるPSDーこれが目標であった。
開発ターゲットは2001年秋発売の新型トヨタ・ノア/ヴォクシーなど4車種。
許された時間は少なかった。

プッシュプルケーブル方式

車体側に駆動・給電ユニットを配置し、ケーブルでドアを巻き取り、引っ張る方式。
車内に駆動ユニットが張り出すため、後部の室内スペースに影響が出る。

ドアにすべての機構を内蔵させるなんて、それは無茶だ! ドアにすべての機構を内蔵させるなんて、それは無茶だ!

「なぜドア内蔵型PSDなんですか。ドアにすべての機構を内蔵させるなんて無茶ですよ」
その疑問に対する開発リーダーの答えはこうだった。
「室内空間が十分確保できるし、駆動ユニットをステップ部に配置する必要がないから乗降性も向上する。
乗用車への搭載も可能になる。
さらに両側スライドドアのパワー化も実現できる。
これが開発できれば、これからのスタンダードになりうる。
だからこそ、何としてでも内蔵型にしないといけないんだ」
「それにしても参考になる資料がなさすぎます」

未だ世の中にない機構の開発に参考になる資料は、何もなかったのである。

ドア内蔵型PSDの持つ主な機能

●運転席スイッチによるスライドドア開閉機能
運転席にあるメインスイッチにより、電動・手動の切替が可能。運転席スイッチ、およびワイヤレスリモコンによるワンタッチ操作の自動開閉が可能
●パワーアシスト機能
車内外のドアハンドルを操作することでスライドドアの自動開閉が可能
●挟み込み防止機能
人や物がドアに挟まれる直前に、ドアが自動反転し、挟み込みを防ぐ
●速度制御機能
安全を考慮し、ドア開閉の作動途中は早く、作動開始直後と終了直前は遅くなる
●付加機能
常に電源を供給する「給電ユニット」により、スライドドアがオープン状態でもウィンドガラスの上げ下げが可能

消防士が体にロープを巻きつけて昇降する動きを、ヒントに 消防士が体にロープを巻きつけて昇降する動きを、ヒントに

…そのアイデアが浮かんだのは、99年2月のある日、夜11時を過ぎた頃だった。
開発リーダーと車体系技術部メンバーの3人はその夜、発想を変え、ロープを固定してドアを動かせないかと知恵を絞っていた。
その時、突然浮かんだのだ。
「消防署の訓練で消防士が自分の体にロープを巻きつけ建物を登り降りする動き。あの動きが生かせないかな」
「消防士がモーターのように自分で回って巻きつけるやつですか」
「そうだ。人間をドアに置き換えて、固定したケーブルを“巻き取る”“送り出す”という動作を繰り返せば、ドアを自在に動かせるはずだ」

同じしくみで思い浮かぶのが、公園やアスレチックコースの池などにあるロープで移動する小舟だ。
対岸まで張られたロープを舟に乗った人が手繰り寄せることで、舟は対岸まで移動することができる。
これを、小舟をドアに、人間をモーターに置き換え、ケーブルの一端をボディー側に固定してモーターで巻き取れば、同じ動きが可能なはずだ。

こうしてドアをスライドさせる基本的アイデアは固まった。

ドア内蔵型PSDの原理

駆動・給電ユニットをドア内部に配置し、ケーブルを巻き取り、ドアを開閉する方式。
室内スペースを広く保つことができる。