マニュアルの低燃費とオートマの操作性を両立せよ!第三のトランスミッションが欧州を席巻 マニュアルの低燃費とオートマの操作性を両立せよ!第三のトランスミッションが欧州を席巻

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オートメーテッドマニュアルトランスミッション開発物語 オートメーテッドマニュアルトランスミッション開発物語
オートメーテッドマニュアルトランスミッション

マニュアル車主体の欧州にトランスミッションの巨大な市場がある マニュアル車主体の欧州にトランスミッションの巨大な市場がある

「車はオートマチックで運転するもの。マニュアルは一部のスポーツタイプに搭載されているだけ」――
日本や米国におけるこんな“常識”が通用しない地域がある。
欧州である。
オートマチックトランスミッション(AT)の搭載率が90%を超える日本や米国に対し、欧州ではわずか20%程度。
ほとんどがマニュアルトランスミッション(MT)車なのである。
ドライバーが自分のタイミングでシフトチェンジでき「運転している実感」が味わえることに加え、動力性能に優れ、低コスト・低燃費であることがその理由だ。

日本や米国におけるMT搭載率の低下により、当社のMT関連部品は減少傾向にあった。
しかし、一方で欧州には巨大なMT市場が存在する。
「我々は欧州では後発メーカーだが、MTの概念を塗りかえるような新しいMTをつくりだせれば、欧州市場を動かせるだろう」。
そんな想いの中から浮上してきたのが、自動式のMT、すなわち「オートメーテッドマニュアルトランスミッション」だった。
MT車の低燃費とAT車の便利さを融合させた、いわば第3のトランスミッションである。
これが実現すれば、欧州のMT市場を切り拓き、当社のクラッチ関連製品はV字回復を果たせるかもしれない――。

オートメーテッドマニュアル
トランスミッションとは

既存のMTに運転者が行うクラッチの操作やシフトの操作を自動化する機構を付加した新しいトランスミッション。

新たな挑戦を実現できれば、ダイムラークライスラーもしのげるはずだ 新たな挑戦を実現できれば、ダイムラークライスラーもしのげるはずだ

こうして自動MTの先行開発に着手したのだが、問題は選択肢が2つあることだった。
油圧式とモーター式。
油圧式ならACS(すでに開発に成功していたクラッチペダルを不要にした油圧式自動クラッチ)の技術が生かせるが、大型でコストも高い。
モーター式は小型化・低コスト化できる可能性はあるが、開発の実績がない。

そんな矢先、欧州からニュースが飛び込んできた。
98年、ダイムラークライスラーが発表した新型スマートに、世界初のモーター式自動MTが標準装備されたというのである。
衝撃的だった。
早速分析してみると随所に最新の技術が織り込まれ、自動MTの小型化に見事に成功していた。
これで開発陣の腹は決まった。
「全く新しい挑戦になるが、小型化・低コスト化できるモーター式自動MTで行こう。モーター式で油圧式並みの応答性を実現すればダイムラークライスラーをしのげるはずだ」――。

99年1月、MT車の燃費性能とAT車の利便性を融合させた第3の変速装置「オートメーテッドマニュアルトランスミッション(モーター式自動MT)」をめざし、先行開発がスタートした。

小型化への壁〜人のペダル加減を再現できるしくみとは〜 小型化への壁〜人のペダル加減を再現できるしくみとは〜

「最大の壁は小型化だな」
そう開発陣が考えたのには理由がある。
クラッチディスクは使用年数が経つごとに摩り減って荷重変化が起きる。
つまり、クラッチ操作に必要な力が増加していくのである。
普通のMT車の場合、ドライバーがペダルの反発力に応じて加減(制御)しながら、「切る/つなぐ」操作を行っている。(下図)
クラッチ操作をモーター駆動で行うモーター式自動MTでは、人間が自然に行っている「制御」ができないため、クラッチディスクが最も摩耗したときに対応できる性能のモーターを搭載しておく必要がある。
モーターの性能が低いと摩耗が進んだときに力不足になり、クラッチ断接ができないケースが起こりうるからだ。
しかし、初めから摩耗した時に合わせた能力のモーターを搭載すると、大型化してしまい、パワーも無駄になる。

この問題をどう解決するか。
開発陣の出した答えは、「小型のモーターでも安定してクラッチ操作ができる“荷重制御装置”の開発」だった。
摩耗が進んでも、クラッチカバー内で荷重変化を一定に保つ装置である。
これならモーターが小型化できる。
「問題は、どうやって荷重を一定に保つかだな…」
「摩耗の度合いをどう感知するかも大きなハードルだぞ」

方向性が見えてほっとしたのもつかの間、これらの課題を克服し、ロードコントロールカバー(LCC:荷重制御機構付クラッチカバー)の装置を設計するための新しい模索が始まった。

クラッチのしくみ

ギヤをチェンジするときにエンジンと駆動輪をいったん、切り離す役目をします。

イライラと押し続けたボールペン「このノック機構、応用できないか」 イライラと押し続けたボールペン「このノック機構、応用できないか」

どうすればクラッチカバー内の荷重変化を一定に保てるか。
答えを求めてアイデア会議が何度も開かれた。
しかし、糸口がなかなかつかめない。
メモが何百枚もたまっていく―――。

そうした状況に対し、ちょっとイライラしていたのかもしれない。
会議の最中、誰かがノック式のボールペンを何度もパチパチ押していたのだ。そのとき、
「それ、応用できないか」
という声が上がったのである。
何のことだといぶかるメンバーにかまわず、彼はこう続けた。
「そのボールペンのラチェット(ノック)機構だよ」
荷重制御装置にボールペンのラチェット機構を応用しようというのである。
ノック式ボールペンのラチェット機構は、指先でノックを押す力とバネを利用したしくみで、内部の爪と歯形状の部品を組み合わせ、“スライド”“固定”“開放”の動きが繰り返される。
ノックを一度押すとボールペンの芯をスライドして送り出し、爪で芯を固定する。
もう一度押すと爪を開放してバネの力で芯がスライドして引っ込む。
「この押す力と歯形部品・爪の動きを応用すればいいんだ」
このメカニズムをラック&ピニオン部に使い、クラッチディスクの摩耗に合わせてピニオンギアをスライドさせれば、荷重変化を一定に保つことができる(下図)というわけだ。

ここからは試作品作りまで一気呵成だった。

荷重制御装置のしくみ

ディスクの磨耗に合わせて噛み合わせがスライドし、↓方向へかかる力を一定に保つ。