●常時給電ユニット「でんでん虫」の誕生
 ――量産化へのGOサイン

 2001年秋の発売をめざし、新型トヨタ・ノア/ヴォクシー向けPSDの開発期限は迫っていた。各担当分野では苦労を重ねながら、着実に製品化へと近づいていた。そして、最後の課題として残ったのが給電ユニットの開発だった。

 従来方式では給電ユニットは車体側にあった。ところが、今回はドアに駆動ユニットがあるため、ドアが開いていても給電できる方式が必要だった。
 ドア内蔵型では、スライドドアの開閉に合わせて、ドア内の給電ユニットと車体側のバッテリーをつなげる電線(ハーネス)の束が伸縮する。この伸縮する電線をドア側に収納する新機構が不可欠だった。

 「問題は伸縮を繰り返す電線をいかにスムーズに巻き取って、ドア内にコンパクトに納めるかだな」
 「ドアを開閉したとき電線が表側に見えるため、見栄えをよくすることも必要だな」
 こうした背景から、いくつものアイデアが検討された。たとえばコードが蛇のように伸び縮みする“蛇腹式”。あるいは葉っぱを移動する尺取り虫の動きから命名した“尺取り虫式”。そうしたアイデアは8カ月の間で8案にものぼった。
 開発は難航した。短期間のうちに試作をつくり、評価を繰り返す。そんな日々が続いた。
 「この給電ユニットが完成しないと、ドア内蔵型PSDの開発はできないんじゃないか?」
 福元たちの胸には、そんな不安もよぎった。

 しかし、努力は報われた。8つ目の試作品を評価し、GOサインが出たのは01年5月。翌日がタイムリミットという、まさに瀬戸際での完成だった。

 電線は20数本のコードを束ねたものだが、断面が円形だと巻き取ったときかさばってしまうため、束の断面を楕円形にして少しでもコンパクトに巻き取れる工夫を施した。
 給電ユニットの形状は薄い丸形で、ケーブルが巻き取られると渦巻き状になり、全体にカタツムリのような形を連想させた。そこでこの給電ユニットは通称「でんでん虫式」と呼ばれた。何とも微笑ましいネーミングながら、そこには技術者たちの苦闘の軌跡が織り込まれていた。

でんでん虫式給電ユニットの構造

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