●“消防士”の動きをヒントに、
 自走式開閉機構を発案

 「なぜドア内蔵型PSDなんですか。ドアにすべての機構を内蔵させるなんて無茶ですよ」
 その疑問に対する福元の答えはこうだった。
 「主要部品をドア側に内蔵するからこそ、車両側への影響が最小限ですむんだ。室内空間が十分確保できるし、駆動ユニットをステップ部に配置する必要がないから乗降性も向上する。乗用車への搭載も可能になる。さらに両側スライドドアのパワー化も実現できる。これが開発できれば、これからのスタンダードになりうる。だからこそ、何としてでも内蔵型にしないといけないんだ」
 「それにしても参考になる資料がなさすぎます」
 その通りだった。スライドドアをどんな機構で、どう動かすのか。未だ世の中にない機構の開発に参考となる資料は何もないのである。手がかりになりそうだったのは自動車のサンルーフやパワーウィンドやビル用の自動ドアの動きくらいだった。からくり人形のしくみが応用できないかと真剣に検討したことさえあった。

 そのアイデアが浮かんだのは、1999年2月のある日のこと、夜11時を過ぎた頃だった。福元と車体系技術部・鈴木、山田の3人はその夜、発想を変え、ロープを固定してドアを動かせないかと知恵を絞っていた。その時、突然浮かんだのだ。

 「消防署の訓練で消防士が自分の体にロープを巻きつけ建物を登り降りする動き。あの動きが生かせないかな」
 「消防士がモーターのように自分で回って巻きつけるやつですか」
 「そうだ。人間をドアに置き換えて、固定したケーブルを“巻き取る”“送り出す“という動作を繰り返せば、ドアを自在に動かせるはずだ」
 早速3人は、書き損じたメモ用紙の裏側にアイデアを色々描いてみた。

 同じしくみで思い浮かぶのが、公園やアスレチックコースの池などにあるロープで移動する小舟だ。対岸まで張られたロープを舟に乗った人が手繰り寄せることで、舟は対岸まで移動することができる。これを、小舟をドアに、人間をモーターに置き換え、ケーブルの一端をボディー側に固定してモーターで巻き取れば、同じ動きが可能なはずだ。
 こうしてドアをスライドさせる基本的アイデアは固まった。議論はさらに深夜まで続いたが、3人の表情は明るかった。

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