●あえて困難な道を選ぶ。
 でなければ到達できない世界がある

 2001年のアドヴィックス設立によって、開発・営業部門は新会社に引き継がれた。かつて走行系技術部に所属し、ABS開発に関わった技術者の多くは同社に籍を移した。
 その一方、当社の生産部門では継続してABSを受注・製造している。05年現在、「GA21」型ABSは24車種で量産中である。

 アドヴィックスの誕生による変化について、営業戦略の視点から走行・駆動系事業部企画部主担当・伊藤はこう分析する。
 「自動車メーカーが部品メーカーに望んでいるのは、個別製品ではなく、システムとして製品を発注できること。ここ数年でその傾向が強くなってきた。現在はアドヴィックスがシステム提案する機会が増えたことで、ABSを含むブレーキ系製品を生産するこちらも、システムで受注できる利点が出てきた」
 新たな企業環境で動き出したブレーキ関連システム製品の開発。さらなる高性能化、エレクトロニックスタビリティコントロール(ESC)への応用など、次なるステージへ向けた活動が始まっている。

 最後は、「GA21」開発に関するこんなエピソードで締めくくりたい。
 超小型DSモーターの開発が行き詰まっていた頃、鈴木はABS装置の開発部門である走行系技術部副部長の柴谷に相談を持ちかけたことがある。
 「粉末素材がうまく開発できないんです」
 鈴木が心の中で予測していたのは、
 「今回は粉末素材はあきらめて、安全な道を選んだらどうか」
 そんな言葉だった。開発は難航していたし、手がかりも皆無。だから自分では言えないことを先輩が代わって言ってほしいというところもあった。ところが、柴谷から返ってきたのは違う言葉だった。
 「軟磁性粉末にこだわれ。徹底的にこだわらなくてはダメだぞ。安全な方法を選ぶな。どんなことがあっても粉末で物にすることを考えろ」

 ものづくりに必要なもの。それはどんな状況であろうと、超えるべきテーマに果敢に取り組む人々の創造力と挑戦する意識の強さであろう。
 そして、あえて困難な道を選ぶことも必要だ。なぜなら、そうしないと到達できない世界が確実に存在するからである。そのことを身をもって感じているのがABSの開発チームにほかならなかった。


※文中の所属・役職は当時のもの、上記リストの所属・役職は2005年6月現在のものです。

アドヴィックス
2001年7月、トヨタ自動車、デンソー、住友電気工業、アイシン精機の4社によって設立。ABSをはじめとした制動系システム製品の開発・販売を行う。

ESC
Electronic Stability Control
横滑り防止装置。急なハンドル操作や滑りやすい路面を走行中に車両の横滑りを感知すると自動的に車両の進行方向を保つように車両を制御する。トヨタ自動車の商品名はVSC(Vehicle Stability Control)という。

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