●世界初の超小型DSモーターを生んだ
 「普段着の着想」

 2000年3月、容積と重量で2分の1という目標をクリアし「GA21」は完成した。世界最小・高性能を誇るECU一体型ABSの誕生だった。
 トヨタ・ビスタ、オーパ、三菱・パジェロイオ、ダイハツ・テリオスなど、量販車に次々と採用された。

 改良はさらに続いた。02年8月に量産化した改良型「GA21−EX」では一層の小型化が進められた。このとき初めて開発されたDS(ダウンサイジング)モーターにも「世界初」の技術が集約された。
 従来のモーター構造ではモーターコアの外側にコンミテーター(以下、コンミ)があるためローターが長くなり、小型化には限界があると考えられていた。そこでモーター開発を担当した要素技術開発部の鈴木将生は意外な視点から超小型化に挑戦した。
 通常は薄板を積み重ねたコアを使うが、軟磁性粉末材料で「インナーコンミ型モーター」を開発しようというのである。
 軟磁性粉末材料とは鉄粉のことである。鉄粉であれば複雑な形状を金型成形でつくることができる。コアの真中を凹ませて、そこにコンミをつくれば、モーター全体を小型化できると考えたのである。
 ところがモーター設計を熟知した設計者の対応は、
 「鉄粉を固めてコアにするなんて無理」
 の一言。相手にされなかった。しかし、鈴木は圧縮する圧力、鉄粉の大きさなど条件をさまざまに変えて実験を繰り返した。
 試作の初期には、滋賀県にある成形メーカーから刈谷の本社まで移動する間に、固めたはずのコアが粉々になっていた…という苦い失敗も経験した。

 鉄粉を金型で圧縮成形しようとする場合、ナイロン系樹脂が必要である。金型との“潤滑剤”として、あるいは鉄粉同士の“接着剤”として添加する必要があるのだが、その一方で、このナイロン系樹脂は高温下での強度を低下させるという弱点を持っていた。作動中のモーターは200度程度までコア温度が上昇することがあるのだが、その時にナイロン系樹脂の影響で強度が低下してしまうのだ。
 鈴木たちが求めていたのは、高温に耐え、かつ金型に対する潤滑性を持つ樹脂材料。どちらかに優れた材料はあるが、両方の条件を満たす材料はなかなか見つからなかった。

 00年初め。1カ月のうちに解決策が出なければ02年夏の量産化に間に合わないという土壇場を迎えていた。
 「残念だが、開発中止か」
 鈴木がそう落胆していたとき、チームに加わって1年になる神谷が、自ら解析した評価データを持ってきた。
 数字を見て驚いた。データは金型との潤滑性確保と高温環境下での強度確保を両立させていたのである。
 「これで行けるじゃないか!」

 それは「潤滑性の高い樹脂」と「高温に強い樹脂」を半分ずつ加えた混合材料の評価データだった。開発メンバーは1種類の材料探しに奔走するあまり、複数の樹脂を混ぜるという基本的なアイデアを見逃していたのだ。解決策は実にシンプル。窮地を救ったのは先入観に捕らわれない“普段着の着想”だった。

 自動車用として世界で初めて軟磁性粉末材料を実用化したDSモーターは、従来型より全長で36%、重量で17%の小型軽量化に成功した。

容積、重量でAIV比約2分の1を達成した世界最小のABS(GA21)

コンミテーター
整流子の意。DCブラシモーターにおいて電流の切替を行う。

軟磁性
磁界を加えた後、磁界を取り除いた時に磁化が残らないもの。
逆に磁化された状態が持続されるものを硬磁性と言い、磁石がその代表。

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