●複合磁性化技術で世界トップ性能を達成

 2分の1の小型化をめざす開発陣は、電磁弁本体の構造も見逃さなかった。ブレーキ油圧を制御する電磁弁で、制御のカギを握る重要な部品だが、ここにも小型化の余地があるとにらんだのだ。
 電磁弁は、電流が流れると磁力によって電磁弁が筒(スリーブ)の中をピストン運動し、ブレーキ油圧を制御する働きをする。このとき筒全体が磁性体だと、不要な部分にも磁力の影響が出てロスになってしまう。限られたスポットに磁力を集中させて効率を高めるためには、通常はバルブ内に「磁性」がある部分と、ない部分が必要である。問題は、その工法だった。
 従来品では、筒を3つの部品に分割し、真ん中の筒を非磁性とすることで磁気効率をあげていた。そして、製品として組み立てる際にこの3つの部品を再度溶接していたのだが、ここに目をつけたのだ。
 「仮に1つで磁性/非磁性を同時に満たす部品を作ることができれば部品点数が減り、バルブ部分を飛躍的に小型化できる」
 というわけだ。そのために新しく採り入れられたのが、レーザー加工による複合磁性化技術だった。

 この解決のためには生産技術部門との密な連携が欠かせないとの判断から、設計部門が構想案を作り、初期段階からSE活動を進めた。設計部門と後工程である生産技術部門との意見交換も、頻繁に行われた。
 複合磁性化が可能かどうか不安視する声が挙がる中で、生産技術部で電磁弁を担当したSE推進グループ・中元には自信があった。
 「複合磁性化の改質加工では、A21Vよりも約1年前に立ち上がったハイドロブレーキシステム(H/BUS)の技術が生かせるだろう」
 素材の一部に高温(千数百度)でレーザーをあてながらある物質を添加すると、その部分だけ材質を非磁性化できる。その技術を応用しようというのだ。スリーブ表面にレーザーをあてて、オーステナイト化元素を局所的に溶かし込むことで材質を変えるのである。
 部分的に非磁性にすること自体はさほど難しいことではない。問題は、ブレーキの油圧回路の一部となるため、改質した部分の欠陥発生をいかに抑制するかだった。工法開発に取り組んだ、生技開発グループ・有田の苦労もそこにあった。
 「変動する要因と欠陥発生との因果関係を徹底的に究明して、最適な条件を設定していくしかない」
 そう決意した有田たちは、変動する要因である素材成分や表面の状態、改質前の洗浄状態、添加元素、改質工程の諸条件など、あらゆる項目について厳しくチェックしていった。また、改質した部分の解析ではX線透過装置を活用して、数十ミクロン程度の小さな欠陥も見逃さなかった。
 量産のための絶対的な品質が確保できたと自信を深めるまでに、解析件数は何万件にものぼった。

 この革新的な複合磁性化技術により、当社の電磁弁は磁気効率と小型化(従来容積比約30%減)で世界でもトップの性能を達成した。

SE
Simultaneous Engineering(サイマルテニアス・エンジニアリング)
設計・生産技術・調達・仕入先等の関連部署との連携により同時並行で開発を行うこと。設計・製造・販売のプロセスを順にたどる従来の商品開発の進め方と比較して、開発期間短縮、コスト削減が期待できる。

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