●めざせ!名刺サイズ――0.1のせめぎ合い

 前モデル「AW」の容積は2リットル、重量は3kg。これを2分の1にするということは、容積1リットル以下、重量1.5 kgにするということである。開発チームは目標を具体化させるために、あらゆる知恵を絞り、大胆な発想でものづくりに挑んだ。

 まず取り組んだのは、ABSの頭脳となる制御ECUのサイズを小さくすることだった。開発を担当した斉藤が設定した目標はECU基板を半分にすること。具体的には“名刺サイズ”だった。
 着目したのはIC。それまで入出力部、駆動部、電源部など各機能にはそれぞれ違うICが使われていた。それを1個のICに集約できないかと考えたのだ。もちろん、そうしたICはまだどこにも存在しない。
 「電磁弁の駆動用パワーICまでも1個のメインICに集約させるわけだろ。そんなECUなんて世界中探してもないぞ」
 というメンバーの指摘に対する斉藤の答えはこうだった。
 「なければ、作ればいい」

 もちろん世界初への試みはそんなに甘くなかった。たとえば電磁弁の抵抗値である。駆動用パワーICをメインICに内蔵するには最低でも5(オーム)以上にする必要があり、それに取り組んだのだが、芳しい結果が得られないのだ。
 結局、わかったのは5以上に上げることが不可能ということだった。ここにいたって開発陣は、基板内のレイアウトとICの中のレイアウトを全面的に見直す作業に取りかからざるを得なかった。0.1単位で抵抗値を変えながら、最適な数値を探っていくのだ。
 ECU基板担当の斉藤は電磁弁の駆動用パワーICを少しでも高い抵抗値で設定したい。一方、電磁弁担当の斉藤(忠)は、より低い数値で妥協点を探ろうとした。
 「あと0.1上げられないかなぁ」
 とECU基板担当の斉藤が言えば、
 「これ以上上げると、弁の作動を保証できなくなるよ。限界だよ」
 電磁弁担当の斎藤(忠)が応じる。0.1でのせめぎ合いが続いた。そんな葛藤の中から、開発チームは8.6と4.3の組み合わせで設計要求をクリアできることを発見した。

 基板の裏表パターンを放熱に使うなどの知恵も絞った。ICでは抵抗値の異なる回路を交互に配置し、スペースの有効利用をはかった。こうしてパワー部のIC内蔵化に成功した。
 名刺サイズとはいかなかったが、従来と比べ超小型化を達成した。当社が先鞭をつけたパワー内蔵ICを使った構成は、現在ではABS用ECUの主流となっている。

5以上
既存のICパッケージの中にICチップを載せる場合、限られたサイズに収めなければならないので、載せられるチップのサイズから、流せる電流が決まってしまう。そこから抵抗値が5以上でなければならないと決められていた。

同じ電圧条件で電流を下げるには、抵抗値を上げる必要があるため。
電圧(V)=電流(A)×抵抗値()
(オームの法則)

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