●高速スクロールコンプレッサーの開発で
 「品質のアイシン」との評価を得る

 「10馬力用のコンプレッサー? そんなものはありませんよ」
 「わかっています」
 「新しく開発しようというわけですか」
 「いや、コストや時間を考えて、現在使っている7.5馬力用のコンプレッサーの回転数を上げて10馬力用にしたいと思っています」
 「どれくらい回転数を上げるのですか」
 「2,800回転を5,000回転にしたい」
 コンプレッサーメーカーの担当者は直ちに反論した。
 「そりゃ、無理です」
 しかし、メンバーは食い下がった。断られても何度も通った。これができなければGHP事業がいずれ立ち行かなくなることは目に見えていたからである。売上げが伸びていかなければ、会社が事業撤退を決断することもありえた。
 その熱意が通じたのか、メーカーも前向きに取り組むようになり、メンバーの士気も上がった。

 ポイントはドライベアリングだった。スクロールコンプレッサーは可動側スクロールを旋回させることで圧縮室の容積を変化させて圧縮するが、この可動スクロールを直接に駆動する役割を持つのがドライベアリングであり、荷重、温度ともに最も過酷な条件にさらされる。したがって開発チームはこのドライベアリングにかかる荷重および温度を低減させるべく改良を進めた。
 しかし、ここでも試練が待ち受けていたのである。ラインオフ4カ月前の94年12月、試作品試験の最中、3,000時間あたりでベアリングが剥離 してしまったのだ。ベンチ耐久テストを行った8台は全滅。時間を考えると致命的である。さすがのメンバーも力が抜ける思いだった。しかし、ここであきらめては元も子もない。
 「ここであきらめるわけにはいかない。もう一度、データをチェックしようや」
 やるべきことをやって改良してきたという気持ちがあるだけに、メンバーも落胆の色は隠せなかったが、これまで行ってきた数百もの試験データを調べ上げていった。
 「ちょっと待て。みんながみんな壊れているわけじゃないぞ」
 「壊れていないものには何か共通点があるはずだ」
 「そうだ、データを並べると確かに不具合に分岐点がある」
 「どこだ、それは」
 「冷媒の吐出圧が2.4 MPaから2.6 MPaだ」
 冷媒は圧力が上昇するほど温度が上昇し、冷凍機油への溶解も激しくなる。すると冷凍機油の粘度が低下し、油膜が十分に形成されなくなる。それが潤滑性の悪化につながるのだが、その分岐点、すなわち変曲点が試験データでいう2.6 MPa付近だというのだ。それがわかれば対策は早かった。
 「コンプレッサーの制御プログラムで2.6 MPa以上に圧力が上昇しないようにすればいい」

 こうして95年に生まれた10馬力GHPは、売上げの拡大に大きく貢献することになった。この投入を機に「品質のアイシン」「スクロールコンプレッサーのアイシン」との評価が生まれてきた。
 そして、その評価をさらに揺るぎないものにしたのが、96年に開発着手した「リニューアル対応機」であった。

10馬力GHP

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