●コンプレッサーの耐久性向上に向け、
 冷凍機油のリターン量を定量的に把握せよ

 対策が始まった。
 「とにかく現場の的確な情報を迅速に開発部門に伝えることだ」と信じ、屈辱に耐えながらクレームの情報を伝達し続けるサービス部の奮闘もあって、状況が次第に明らかになっていった。
  一番の問題点は、コンプレッサーに故障が頻発していたことだった。運転時間が長時間に及ぶ、配管が長いといったGHP独特の使用環境条件を満たすだけの耐久性がなかったことが原因だった。その耐久性を早急に2万時間まで向上させなくてはならない。

 コンプレッサーの開発担当はコンプレッサーメーカーへ足を運んだ。しかし、メーカーの反応は、
 「それほど厳しい負荷使用条件で2万時間を持たせるなんて我々には無理です。もうアイシンさんでやっていただくしかない」
 と冷たかった。他のコンプレッサーメーカーに至っては、
 「そういう条件下でそれだけの耐久性を持つコンプレッサーの開発は、我々からすれば、無謀というしかありません」
 と言い放ち、あげくに
 「アイシンさんは余裕があって趣味でやれるからうらやましいですね」
 などと言われるに及んで、メンバーの腹は決まった。
 「よし、自分たちでゼロから開発をやり直そう」

 回収した故障品をばらし、各部を丹念に調べる日々が続いた。そこでわかったことは、冷凍機油がコンプレッサーにリターンしてこないことだった。これはカーエアコンの配管の長さがせいぜい2〜3mなのに対し、GHPの場合、100m以上になることにも原因があった。長くなるほど冷凍機油が配管の中に残され、コンプレッサーへリターンしてこなくなる。故障をなくすにはまずこのリターン量を測定する必要があった。
 ところがこの測定がきわめて難しいのだ。冷凍機油は配管中を冷媒と一緒に管壁を伝って流れるが、その冷凍機油の中にも冷媒が溶け込んでしまい、ときには半分以上が冷媒のこともある。したがってカーエアコンで行っているような単純な液中オイル濃度測定では正確な冷凍機油の量が確認できないのである。

 「どうすれば冷媒ガス流に混合する冷凍機油の量が測定できるだろうか」
 もちろん、そんな測定機など存在しない。それどころか、測定の方法さえ確立されていなかった。
 悩んだ末に開発担当が注目したのが、オイルセパレーターだった。
 「測定用のオイルセパレーターを高性能にすれば冷媒とガスの混合ガスのオイルリターン量が定量的に測れるはずだ」
 しかし、そのためには冷媒と冷凍機油を分離しなくてはならない。開発担当は採取したガス状態の冷媒と冷凍機油の重量を測り、その後に冷凍機油に溶け込んでいる冷媒を蒸発させ、重量を測るという方法を考え出した。これで冷凍機油の循環率(OCR)を割り出していこうというのである。いろいろと試したなかで、これが一番信頼性の高いことがわかった。
 これが突破口となった。測定方法を確立すると同時に測定装置の開発も進めた結果、適正なオイルリターン量を定めることができた。これにより、従来は1%以下だったものをどんな運転状態でも3%以上に設定すべきことがわかった。
 オイルリターン量を定量的に測定する測定方法と測定装置を業界で初めて確立した意義は大きく、耐久性は着実に高まっていった。

オイルリターン量測定装置

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