●トラブル続出でいきなりのどん底。
 汚名を着たままでの出発

 「ここで、うちのラーメンを食ってみろ!」
 湯気がもうもうと立ち上がるラーメンを差し出しながら、ラーメン店の店主が叫ぶように言った。店内は40度を超す猛暑である。無理もない。真夏の午後だというのに、エアコンが壊れ、全く冷房が効いていない状態なのだ。もちろん客は誰もいない…。
 GHP の修理にやってきたお客様サービス部のメンバーは、店主の痛いほどの視線を浴びながら、自分の汗も加わってちょっぴり塩辛くなったラーメンを黙ってすするしかなかった。

 故障したGHPの修理に出かけた担当者たちは全国で同じような目に遭っていた。罵声を浴びせられるだけならまだいい方で、頭から焼きそばや洗剤をかけられたりした者もいれば、「反省しろ」と言われて倉庫や屋上に閉じ込められたりした者さえいた。87年から90年にかけてのことだった。

 85年、当社は東京ガスと共同でGHPの開発をスタートした。電力エネルギーの利用平準化、つまり夏季電力需要のピークカットや天然ガスの利用促進を狙っていた東京ガスが、スターリングエンジンの開発で関わりのあった当社に共同開発を申し入れてきたのだ。
 当初のメンバーは、開発・営業・企画部門合わせて16名。先行メーカーはいくつかあったが、87年、他社にはない7.5馬力のGHPを開発・発売し、東京ガスによる販売支援や国の補助金もあって、3年目には年間32億円を売り上げるまでになった。

 しかし、ここからが地獄だった。
 納入先でトラブルが続出したのである。コンプレッサーの破損、エンジンバルブのかみ込み、振動による配管の破損など、多くの不具合が発生してしまったのだ。原因を究明する前に次の不具合が発生するといった有様で、開発部はパニック状態。サービス部もパンク寸前だった。他社製のGHPでも故障はあったのだが、いかんせん当社の故障率は高かった。市場関係者から「故障の多いアイシン」という汚名を着せられるのに、そう時間はかからなかった。

 「アイシンさんには自動車部品で培ったエンジン技術、コンプレッサー技術、制御技術、システム技術があるはずです。それが活かせなかったのですか」
 という取引先の声に対し、GHP開発担当は、
 「GHPになると使用時間は通常2万時間にもなるのに対し、自動車での使用時間はせいぜい数千時間。そういったことからもわかるように、自動車とGHPとでは使われる環境や条件が違いすぎるんです。GHPがどういう条件でどういう使われ方をするのか、それがつかみきれませんでした」
 と答えるしかなかった。

スターリングエンジン
シリンダー内に水素・ヘリウムなどのガスを封じ込め、外部から加熱・冷却を繰り返してピストン運動をさせる外燃機関。熱効率が高く、低振動・低騒音、排ガスの清浄化が容易、利用できる燃料の幅が広い、などの特長がある。

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