●量産化に向けた課題を乗り越えて

 一方、VVTの生産を担当する西尾工場で、開発陣が生産関係者に説明会を開いたときのこと。開発陣に浴びせられたのは生産技術部からの鋭い質問だった。
 「なぜこんなに公差(許容差)が厳しいんだ」「得意先の要求機能は何だ」「最終検査は何がいるんだ」――。
 無理もなかった。工場側にとっては初めてのVVT量産化、しかも得意先はほとんど経験のない欧州メーカーである。当然、品質に対する考え方や要求項目も違うだろう。それにどう対処すればいいのか。
 それは開発側も同じだった。得意先にとっても初めての製品だったから要求仕様がなかなか決まらない。したがって当社の開発陣がこの生産技術部からの直球の質問に答えられるはずもなかったのである。
 しかし、何とか納得してもらわなければならない。ここで役に立ったのが、最初に検討していた設計計算だった。これをもとに公差の機能に対する影響などが説明できた。もちろん、VVTの将来性についても熱っぽく語った。燃費向上と排ガスの低減を同時に実現するVVTの量産化に成功すれば、必ずアイシンの屋台骨を支える製品になる。欧米の他メーカーにも採用が進むだろう…。
 生産技術部の担当者の表情が緩んだ。
 「全ての構成部品がミクロン単位だから量産化には苦労するかもしれない。だが、開発が言うように成功すれば需要は莫大だろう。さらにコストが下げられれば、大きなシェアも期待できる」。
 決断すれば、行動は早かった。西尾工場の生産技術課が協力体制をしき、加工基準や加工方法など細部を詰めていった。設備は刃具の形状・材質から、組み付けの方法まで綿密に検討された。品質のチェック項目を作ることを含め、多くが初めての試みだった。

 生産設備でも苦労があった。完成品検査用の設備である。
 たとえばエンジンオイル一つにしても入念な素材選びが必要だった。実車で使われるオイルは高温だが、作業者のことを考えて検査で高温のオイルは使えない。常温で同じような性質をもつオイルを探し出すことから始めなければならなかった。また実車状態と同じ状態で検査するため、実際に使うシリンダーヘッドを利用した。
 数カ月後、検査設備が完成した。何の心配もしていなかった。同じ性状のオイルを使うし、シリンダーヘッドも同じである。ところが、結果は予想外だった。テストしてみると思い通りに作動しないのである。回転数、油温、油圧すべてを確認しても異常がない。
 「ひょっとして計測器が壊れているんじゃないか」
 もちろん正常だった。
 最終的に油種・温度・配管抵抗等の微妙なバランスの狂いが原因と分かった。
 また多くの工程を自動化したが、ベーン挿入機の改良においても、数ミクロンの精度で高速に挿入するために牧野たちは、知恵と汗を絞った。
 生産技術、設計を含めメンバーたちは一つずつ不具合か所をつぶしていく作業で、改良を重ねていった。
 そして2000年春、VVTはラインオフ式を迎えた。

西尾工場のVVT生産ライン

完成品検査設備

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