●リターンマッチへ

 成形法にも目処をつけ、開発メンバーは2002年4月に試作品を完成させることができた。そして7月、待望のニュースがメンバーのもとに飛び込んできた。
 「このマットレスを正式な開発テーマとして再登録する」
 リターンマッチが許されたのだった。

 もう失敗は許されないと腹をくくるメンバーの前に、次に立ちはだかったのは耐久性の確認だった。
 マットレス用としては全く新しい材料であったため、10年以上も使用するような例がなかったのである。短期間であれば実使用テストをすればいいが、長期間にわたって使用されるマットレスはそれでは不十分である。促進試験しかない。しかし、どのように試験してどう評価するのか、見当もつかなかった。
 ここで、材料技術部が持つ評価項目の設定基準や原料の特性に関する理論的な裏づけが役立った。
 問題は、スチレン系エラストマーのなかに閉じ込められているオイルによって、材料の最大の特徴である柔らかさが維持されていることだった。
 「長く使った場合、このオイルがどうなるかだな」
 「滲み出す可能性はありますね」
 「オイルが出てしまえば、柔軟性は失われてしまいます」
 「ということは、オイルが出てきてしまうような状態を強制的につくりだせば促進試験になるはずだ」
 こうして強制的にオイルを吸い出した状態で荷重と温度の負荷を加える評価法を考案。通常の使用環境での評価と照らし合わせることで促進試験を実施した。
 また、各種の劣化試験、マットレスでのモニター試験、弾性体をクッション材にした座布団をメンバー全員で使う実使用耐久試験なども行った。

 だが、商品化に向けてはもう一つのハードルがあった。開発コンセプトにもうたわれた「寝返りのしやすいマットレス」をどう定量評価するかということである。販売に弾みをつけるためにも、最大のセールスポイントになる寝返りのしやすさをデータで示さなければならない。
 山田たちは再び頭を抱えることになった。寝返りのしやすさを研究した文献などなかったし、睡眠中の体の動きをビデオで撮り、寝返りの回数をカウントするという素朴な方法では、それが寝具によるものかどうかの判定が難しかったからである。

 そうしたなかで筋電位による評価に目をつけたのは、住生活健康学研究所が行った研究成果からだった。ホテルのベッドメーキング作業のしやすさを評価するために筋電位を使ったことがあり、それがヒントになったのだ。
 直ちに試作品だけでなくジェルマットやスプリングマットレスの筋電図を測定したところ、試作品での筋電位の振幅が他のマットレスより低いことが判明。寝返りするときの抵抗が少ない、つまり寝返りしやすいことがわかったのである。データを睡眠の権威である大学教授に提供し、寝返りのしやすさについてのお墨付きを得ることができた。
 02年秋、新しいマットレスの開発は成功した。開始から約2年半。リターンマッチを制しての“勝利”だった。

樹脂弾性体の分子モデル

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