●新しい材料を求めて続く試行錯誤。そして開発中止

 材料探しに奔走する日々が続いたある日のこと。
 「これならいけるかもしれない」
 ウレタン系エラストマーという素材を前に山田が言った。思うような材料が見つからず苦労している時、自動車部品メーカーから持ち込まれたものだったが、柔らかさはメンバーの期待に近いものだった。エラストマーとはゴムのように柔らかく、熱を加えれば樹脂のように加工できるという特長を持つ材料だ。
 「柔らかさは何とかなりそうだが、問題は耐熱性だな」
 しかし、耐熱テストの結果はメンバーを完全に失望させるものだった。製品の輸送条件を考慮して80℃の耐熱性試験を行ったところ、形状が崩れてしまったのである。

 次の候補になったのはスチレン系のエラストマーだった。低温特性がよく、1年を通して柔軟性を維持でき、強度も合格点をクリアしたが、やはり耐熱性に問題があった。シリコン系エラストマーも試したが、耐熱性はクリアしたものの引き裂き強度が弱かった。

 探しあぐねたメンバーがもう一度チャンスを与えたのがスチレン系だった。1年を通じての柔軟性や耐引き裂き性、生産実績が多いことなど、性能とコストを考えると最も有望と判断したのだ。
 「今度は原材料のメーカーに頼んでみようじゃないか」
 スチレン系エラストマーを扱っている大手化学メーカーに相談してみたところ、メーカーの担当者から返ってきた言葉はそっけないものだった。
 「ベッドで使用するくらいの量で、要求される耐熱性と柔らかさを持ったオリジナル材料の開発は不可能です。できるならこっちが教えて欲しいぐらいです」
 
 コストも大きな壁だった。使用する材料のイメージが明確になるのにともない、マットレスを構成するクッション材(弾性体)の形状や配置の検討を始めていたのだが、コストを試算するととてつもなく高価になってしまうのだ。とにかく安い材料を選ぶしかない。

 八方ふさがりのなかで、一つだけ明るい兆しだったのは、自動車のゴムやウレタンの成形部品を生産している材料加工メーカー・T社が材料開発への協力を申し出てくれたことだった。難度の高いメンバーの要求にただ1社、「やってみましょう」と反応した会社だった。

 しかし、開発をスタートして1年以上たっても「これは」という具体的な成果があがらなかった。2001年7月、ついに非情な通知が開発メンバーに下された。
 「これ以上材料の開発に時間を費やすことはできない。開発テーマから外す」
 中止通告だった。

エラストマー
エラスティックポリマーの略。常温付近でゴムのように弾性に富む高分子化合物の総称。

様々な形状の弾性体の試作品
(上からチューブ型、リング型、カップ型)

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