●オンリーワンのマットレスを開発せよ

 まず、営業が口火を切った。
 「確かに当社のジェルマットレスは、スプリングベッドやウォーターベッドに換わる新しいカテゴリーを作った。しかし、低反発マットレスの激しい追上げを受けている以上、何らかの対策が必要だ」
 開発が答える。
 「うちも低反発ウレタンフォームの商品が必要ということか」
 「ちがう。それでは市場で差別化ができない」
 「ジェルを改良するという方法もあるが…」
 「それでも弱い。営業としてはかつてのジェルマットレスがそうだったように、新しいカテゴリーを打ち立てるようなマットレスがほしいんだ」――。

 1995年に発売されて当初こそ好調だったものの、2000年になって競合他社の低反発マットレスの攻勢を受け、販売に陰りが見え始めていたジェルマットレス。この状況を打開すべく、営業サイドが求めていたのは、従来とは概念を全く異にした、すなわち“オンリーワンのマットレス”だった。

 開発チームが考えに考え抜いた末、たどり着いたキーワードは「寝返り」。それは、「快適な寝心地によって不要な寝返りを減らす一方で、必要な寝返りをしやすくするマットレス」だった。
 寝返り性は、以前から認知されている特性であったが、それをデータで実証した商品は存在しなかった。しかし当社では、かつてジェルマットレスを開発した際、「住生活健康学研究所」と大学との共同で生体計測を行っていたことがあり、寝返り性を特徴として打ち出した商品を開発できると考えたのである。
 「これなら低反発マットレスに勝てる」
 ライフ&アメニティ技術部グループマネージャー・内藤はそう確信した。

 00年春、ライフ&アメニティ技術部チームリーダー・山田、藤田、小幡のわずか3名で開発は始まった。
 チームがめざす「快適な寝心地」と「寝返りのしやすさ」のうち、快適な寝心地についてはジェルマットレスで実現していた優れた体圧分散性のノウハウがあった。問題は寝返りのしやすさである。
 メンバー達の結論は、「ジェルマットレス並みの体圧分散性を持ち、しかも寝返りがしやすくなるような柔らかさを持ったクッション材、これを開発するしかない」というものだった。言葉を換えれば、ジェルマットレスを越える特性を持つ、流体でない材料である。
 ジェルを越える材料を追求する「非流体ジェルプロジェクト」の始まりだった。

 しかし、材料開発は難航した。
 メンバーが最初に向かったのは材料技術部である。
 「難しいですね」
 と答えたのは材料技術部の角谷である。
 「希望通りの柔らかさを持っていたとしても、季節によって柔らかさが変わってはいけないんですよね」
 山田はうなずいた。
 「競合である低反発マットレスは冬になると硬くなる欠点がある。新しいマットレスでは1年を通して同じ柔らかさを維持して、差別化をはかりたい」
 さらにマットレスの場合、輸送時に意外な高温にさらされるケースがあるから耐熱性も不可欠である。そして何より、軽くて、コスト競争力のあるものでなければならない。そんな条件をクリアする材料など、おいそれと見つかるものではなかった。

住生活健康学研究所
1994年、当社の住生活関連事業の統一コンセプト「住生活と健康」が設定され、これに関する研究を行うことを目的に設立された。

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