●取引は円か、ユーロか

 一方、営業チームではメンバーが欧州の経済動向とユーロの変動に一喜一憂する日々が続いていた。
 製品が輸出される場合、為替は最大の変動要因である。これまではあらかじめ取り決めた「1ユーロ=X円」の固定相場にもとづいた「円建て・固定相場」による取引だった。ユーロの相場がどのように動こうと、当社には日本円で一定の金額が支払われ、トヨタ自動車側が為替リスクを負う。
 しかし、このまま「円建て・固定相場」を続けていいのだろうかという思いが、営業部グループマネージャー・太田をはじめとする営業チームにはあった。日本での生産品を欧州に持ち込み、現地で欧州の競合に打ち勝って採算を確保するには、トヨタ自動車が設定した「1ユーロ=X円」の円建て取引では非常に困難だったからである。

 「いっそのことユーロ建て・変動相場にしてはどうか。トヨタにもアイシンにとっても初めての試みだけど、為替相場に合わせて納入価格を決めようや」
 太田が口火を切った。
 「ユーロ建て・変動相場」にした場合、当社はトヨタ自動車からユーロで代金を受け取ることになる。ユーロに対して円高が続くと利益が減る可能性はあるが、円安で安定すれば逆に利益が増える。
 「円高になったら利益が目減りします。力を尽くしてくれた技術者に説明のしようがない」
 「しかし、このままでは採算を確保することができなくなる。円安の今は、ユーロ建て契約にして当面の利益を確保すべきだと思う」
 「そうは言っても、うちはユーロ建てどころかドル建ての経験もないんだぞ。どうするんだ」――。
 何度も議論を交わしながら、円かユーロかのシミュレーションを繰り返した。

 太田はメンバーを前に力説した。
 「1〜2年先は予測できてもその先は読めない。トップにも相談した。冒険だけどユーロ建ての契約で腹をくくろうと思う」
 「ユーロが円高にふれたらどうします」
 即座に太田は答えた。
 「そのときは現地で生産すればいいじゃないか」
 00年当時、チェコに新たな生産拠点の建設計画が進行していた。
 こうして初のユーロ建て契約が決定した。

◇円・ユーロ為替相場の変動
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