●「もたつき」をなくせ

 2001年1月、先行開発により実用化の目処が立ったことを受け、新型ヤリスへの搭載に向けて正式にトヨタ自動車との共同開発がスタートした。アイシングループでは開発部、駆動系技術部、ECU・モーター部を担当する電子系技術部、MT部を担当するアイシン・エーアイ、さらに営業部隊も含め、総勢約40人が集められた。許された開発期間は約2年だった。
 もちろん性能をクリアするだけではなく、競争力を持たせるためのコスト低減も一貫したテーマになった。全体を統括する駆動系技術部グループマネージャー・青山のもと、99年から進めていたSE活動をさらに強化させ、ムダのない効率的な開発を進めた。

 99年10月に完成していた初代試作は思ったような性能をあげられなかったため、それを改善して00年5月、2代目の試作を完成。しかし、結果は製品化には程遠いものだった。
 問題だったのはクラッチACTを動かすモーターのパワー不足だった。小型化にこだわった分、どうしても必要なパワーが出ないのである。だからといって、モーターを大型化するわけにはいかない。
 「補助スプリングをつけるしかない」
 これがメンバーの達した結論だった。
 ACT内にスプリング(ばね)を付けることで駆動力を補助しようというのである。これ自体、目新しいアイデアではないのだが、実際に付けるとなると、どういった特性を持ったばねを選ぶかが問題になってくる。
 すぐさま検証に入った。ばねの材質、形状、ばね特性、取付け位置など…。
 読みはあたった。LCC+補助スプリングがある状態でACTへの負荷を比較したところ、ともにない場合と比べ6分の1に軽減されることがわかったのだ。
 モーターの小型化を可能にしたもう一つのブレイクスルー、パワーアシスト機構の誕生だった。

 そうしたハード部隊とは別に制御チームでも難題を抱えていた。ECU部の制御ロジック開発である。
 「問題はもたつきだな」
 「もたつき?」
 「ドライバーが感じる違和感と言っていいかもしれない。モーター式の自動MTでもクラッチが遮断している間はアクセルをいくら踏んでも加速しない。遮断時間が長いとドライバーがもたつきを感じてしまうんだ」
 遮断時間をできるだけ短くしてフィーリングの改善をしなければならない。商品力を高めるにはどうしても避けられない課題だった。
 「クラッチの遮断、シフトの移動、クラッチの接続という動きをいかに迅速にするかが鍵だな。となるとACTをいかに滑らかに動かすかということになる」

 そこでACT構造(ハード)と制御アルゴリズム(ソフト)の両面から最適化をはかった。また応答性と制御精度のポテンシャルを高める一方、ACTが温度の変化や使用による劣化があっても安定した性能を発揮できるよう「外乱オブザーバー」という新たな制御理論を構築、制御品質の向上をはかった。

SE
Simultaneous Engineering(サイマルテニアス・エンジニアリング)
設計・生産技術・調達・仕入先などの関連部署との連携により同時並行で開発を行うこと。
設計・製造・販売のプロセスを順にたどる従来の商品開発の進め方と比較して、開発期間短縮、コスト削減が期待できる。

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