●ボールペンが壁に穴をあけた

 どうすればクラッチカバー内の荷重変化を一定に保てるか。答えを求めてアイデア会議が何度も開かれた。しかし、糸口がなかなかつかめない。メモが何百枚もたまっていく―――。
 そうした状況に対し、ちょっとイライラしていたのかもしれない。会議の最中、誰かがノック式のボールペンを何度もパチパチ押していたのだ。そのとき、
 「それ、応用できないか」
 という声が上がったのである。何のことだといぶかるメンバーにかまわず、彼はこう続けた。
 「そのボールペンのラチェット(ノック)機構だよ」
 荷重制御装置にボールペンのラチェット機構を応用しようというのである。
 ノック式ボールペンのラチェット機構は、指先でノックを押す力とバネを利用したしくみで、内部の爪と歯形状の部品を組み合わせ、“スライド”“固定”“開放”の動きが繰り返される。ノックを一度押すとボールペンの芯をスライドして送り出し、爪で芯を固定する。もう一度押すと爪を開放してバネの力で芯がスライドして引っ込む。
 「この押す力と歯形部品・爪の動きを応用すればいいんだ」
 このメカニズムをラック&ピニオン部に使い、クラッチディスクの摩耗に合わせてピニオンギアをスライドさせれば、荷重変化を一定に保つことができるというわけだ。
 ここからは試作品作りまで一気呵成だった。

 一方、クラッチの摩耗の度合いを感知する技術はどうか。
 開発陣が着目したのは、荷重によってアクチュエーターのモーターの電流値が増減する現象だった。その電流値の差を感知してECUで制御すれば、解決できるはずである。
 こうしてモーターの電流値が高いときは操作力を減らし、常に一定の操作力を保つ荷重制御機能の概念を固めることができた。
 しかし、ここまではあくまで先行開発である。その先には量産化という最大の目標に向けた道のりが待っていた。

ラチェット機構
歯形状の丸板に爪を差し込んで固定したり、開放したりする機構。ドライバーやレンチなどの工具にも使われるしくみ。

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