●欧州からの衝撃

 駆動系技術部の内藤は不満だった。
 入社以来、駆動系部品の開発一筋に関わり、1999年にはクラッチペダルを不要にした油圧式自動クラッチ(ACS)を製品化したのだが、市場からの反応は少なく、本人も出来栄えには満足していなかったからである。
 苦労を共にした開発陣の思いも同じようなものだった。「信頼性は高いが油圧式では大型になりすぎる」「ACSだけでは魅力に乏しい」「市場ニーズは違うところにありそうだ」。しかし、当社が長年にわたって蓄積してきたクラッチ技術に対する思い入れは、内藤自身はもちろん開発陣にとっても、大変強いものであった。
 「伝統の技術がこのままなくなってしまうのはあまりに惜しい」。

 圧倒的にMT車が多い欧州市場の「特殊性」については、開発陣もよく知っていたし、これを攻略したいという願いもあった。またEUの新車排ガス規制により、さらなる燃費向上というテーマもあった。
 そのためには、従来の概念を変えるようなMTを送り出す必要がある。それが実現すれば蓄積したクラッチ技術を生かすことができ、欧州市場の開拓にもつながる。
 こうして自動MTの開発に乗り出すことになったが、問題は選択肢が2つあることだった。油圧式とモーター式。油圧式ならACSの技術が生かせるが、大型でコストも高い。モーター式は小型化・低コスト化できる可能性はあるが、開発の実績がない。

 そんな矢先、欧州からニュースが飛び込んできた。98年、ダイムラークライスラーが発表した新型スマートに、世界初のモーター式自動MTが標準装備されたというのである。衝撃的だった。早速分析してみると随所に最新の技術が織り込まれ、自動MTの小型化に見事に成功していた。
 これで開発陣の腹は決まった。
 「全く新しい挑戦になるが、小型化・低コスト化できるモーター式自動MTで行こう。モーター式で油圧式並みの応答性を実現すればダイムラークライスラーをしのげるはずだ」――。

 99年1月、MT車の燃費性能とAT車の利便性を融合させた第3の変速装置「オートメーテッドマニュアルトランスミッション(モーター式自動MT)」をめざし、先行開発がスタートした。

◇EUの新車排ガス規制

1998年にEUと自動車メーカーとの間で取り決められた。新車の平均CO2排出量を95年の1kmあたり186gから08年までに140gに削減するもの。自動車メーカーごとに排出総量が決められるため、1台当たりのCO2排出量が少なければ、それだけ多くの車両を販売できることになる。

2/9