●電動コラムを事業の柱に
 ―― 欧州での安全基準強化はチャンスだ

 それは走行系事業特有の事情だった。
 この時期、同事業ではブレーキ製品が主流を占めていた。売上高、開発・生産に携わる人の数、投資金額など、どの指標をとってもブレーキ製品が格段に上だった。操舵・懸架系製品でもエアサスペンションなどの量産品はあるが、まだ安定した事業の柱とは言えない。
 「いつか操舵・懸架系事業を盛り立てて、単独で事業としての自立化をはかりたい」
 というのが事業に関わる人々全員の願いだった。電動コラムはその起爆剤になりうるものの一つだったのだ。

 98年秋、そんな思いを抱いていた操舵・懸架系の関係者に、ニュースが飛び込んできた。
 欧州の自動車安全基準「E(EURO)−NCAP」に車両衝突時のドライバー保護要件の強化が導入されているというものだった。「NCAP」は新車の安全性を評価する基準だが、E−NCAPで、従来の頭、胸などの障害規定に加え、膝の障害規定が追加されるというのである。
 コラム部を含むステアリングシャフトは、ハンドル操作を車輪に的確に伝える機能のほかに安全装置としての機能も備えているが、E−NCAPに膝の障害規定が追加されたことで、コラムの安全性能がいっそう重要視されるようになったのである。その基準は、02年以降さらに厳しくなるだろう…。

 「千載一遇のチャンスだ」
 このニュースを聞いたときの、営業関係者の最初の反応だった。
 厳しい競合が続くトヨタ自動車内製部門とのコンペ、一方で肩身の狭い思いが消えず、走行系事業の中で募る危機感…こうした状況を抜け出すきっかけがほしかった関係者にとって、それは絶好の好機到来を意味した。
 「安全基準の強化を機に、トヨタ自動車の電動コラムを当社製に一本化していただけるような、世界一の製品を全力で作ろう。将来は他の自動車メーカーにも売れる商品に育て、走行系事業の柱にしようじゃないか」

 救世主としての期待を一身に背負い、新しい電動コラムの開発がこうして始まった。

E(EURO)-NCAP
EURO-New Car Assessment Program
衝突安全基準の一つ。国や地域別によって基準が異なり、欧州の基準はE−NCAP、日本の基準はJ−NCAPと呼ばれている。

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