●15年間の眠りから覚めた「人センサー」のアイデア

 開発のキーポイントとなったのはセンサーやアンテナなどの要素技術である。なかでもオーナーがドアを開けようとする意志をドアハンドルの静電容量の変化で感知するセンサーと、一定の範囲に確実に電波を発信できるアンテナの開発がポイントだった。
 そのセンサーの開発を担当した電子系技術部・村上は、入社以来、通信技術を駆使してナビ用GPSアンテナなどの開発に関わってきた技術者だが、さすがの彼もこのセンサーに関しては苦悩する日々が続いていた。
 そんなある日、上司がふと思い出したように言った。
 「昔、君が静電容量を利用したアイデアを提案したことがあったよな。あれが活用できるんじゃないか?」

 たとえば、ラジオを聴いていて、アンテナに手を触れたり、人が近づいてきたりすると感度が変わることがある。これはアンテナの静電容量が変化するためだ。村上は、誰もが体験的に知っているこの現象を、何かに応用できないかと考えた。そして15年ほど前、このメカニズムを生かして、パワーウィンド用「挟み込み防止センサー」の試作品をつくったのである。特許を取り、自動車メーカーにも提案したが、残念ながら実用化には至らなかった。
 「そうか、あのアイデアを生かせるかもしれない」

 人が物に触れるとき変化する静電容量を検出する。これが村上の着想である。名付けて「人センサー」。オーナーがドアを開けようとする時には、必ずドアハンドルに手をかける。その静電容量の変化を利用するのである。うまくいけば今度こそ、実用化できそうだ――。

 だが、問題はそう簡単ではなかった。ドアハンドルが雨や水に濡れたとき、あるいは触れる人の体質、握り方の強さ、手袋の有無、天候などによっても静電容量は変化する。開発するには条件によって変わる静電容量差を正確に知る必要があった。
 そのために行ったのがモニター評価だった。静電容量は体格や体質によっても微妙に個人差が生じてくる。そこで体脂肪率の違う30人近くの人に参加してもらい、各自の静電容量の差を計測したのである。また、評価はなるべく自然に近い条件で行わなくてはいけない。村上たちは雨が降り出すと、あわててドアハンドルを搭載したドアパネルを屋外に持ち出し、データ取りを行うという地道な努力を続けた。

 もちろん評価を行ったのは当社だけではなかった。キーを意識しない全く新しい製品であるため、お客様の慣れや習熟度を見越した仕様を数値化する必要がある。そこでトヨタ自動車を含めた関係各社はモニター車での評価を繰り返して数値化し、仕様の妥当性をお客様の立場で検証していった。
 こうしてさまざまな検討・評価を繰り返し、静電容量の変化を識別することで「人センサー」は実用化の目処がついた。

静電容量
電気を貯める能力。電気容量、またはキャパシタンスともいう。

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